Instagram、YouTube、TikTokをはじめとするソーシャルメディアの普及により、企業とインフルエンサーとの提携が急増しています。しかしながら、適切な契約とFTC(連邦取引委員会)コンプライアンスを欠いた場合、企業側・インフルエンサー側双方に法的リスクが生じる可能性があります。
カリフォルニア州におけるインフルエンサー契約の実務的ポイントと、FTCのガイドライン遵守を中心に、契約書に盛り込むべき条項、想定されるトラブル、そして最新の規制動向を解説します。
1. なぜインフルエンサー契約が重要なのか?
企業がインフルエンサーとタイアップする場合、形式的なメール合意や口頭契約だけで進める例が少なくありません。しかし実際には以下のようなリスクが存在します:
- FTC規制違反による罰金・行政指導
- 虚偽表示・誇大広告による民事訴訟
- インフルエンサーによる不適切投稿・炎上による企業イメージ毀損
これらのリスクを回避するには、契約書の整備とコンプライアンス管理が重要です。
2. FTCガイドラインと開示義務の要点(2023年改訂版)
FTCは2023年に、ソーシャルメディアにおける広告表示に関するガイドライン(Endorsement Guides)を改訂しました。重要なポイントは次の通りです:
- 「広告」であることを明確に開示しなければならない(例:#ad, #sponsored)
- 消費者が誤認しないように、見やすい場所に表示する必要がある
- 報酬や商品提供の有無を明確に開示する義務がある
▶ FTC公式:Endorsement Guides – What People Are Asking
3. カリフォルニア州法との関係:不公正競争法(UCL)と消費者法
FTCガイドライン違反は連邦法の問題ですが、カリフォルニア州でも独自の消費者保護法(Business & Professions Code §17200等)により、虚偽表示や欺瞞的広告が規制されます。
たとえば:
- 消費者に誤解を与える表示によって競合他社が民事訴訟を起こす
- California Consumer Legal Remedies Act(CLRA)違反でクラスアクションが提起される
4. 契約書に入れるべき主要条項
実務的には、以下のような明確な契約条項が必要です:
条項名 | 内容 |
---|---|
開示義務条項(Disclosure Clause) | FTCガイドラインに基づき、広告・報酬関係の明示を義務付け |
承認制条項(Approval of Content) | 企業が投稿前に内容確認・承認を行う権利を明記 |
知的財産権条項 | 画像・動画・文章等の使用範囲と所有権の整理 |
補償条項(Indemnity Clause) | インフルエンサーの過失による損害発生時の責任明確化 |
非攻撃条項(Non-Disparagement) | 契約期間中・終了後の否定的発言制限 |
5. 想定される紛争例
近年は以下のようなトラブルが報告されています:
- 投稿に「#ad」がなく、FTCから企業に警告書送付
- インフルエンサーが競合商品を同時に紹介し、契約違反と判断
- 製品事故後、企業名をタグ付けして批判投稿を行い、名誉毀損の問題に発展
6. 日本企業に特有の注意点
日本本社とカリフォルニア子会社の契約管理が分断されている場合、次のようなリスクが高まります:
- 日本法ベースのテンプレート契約がカリフォルニア州では無効または不完全
- 報酬の形態(現物提供など)に関する米国税法・報告義務を見落とす
- Choice of Lawや裁判地条項が適切でない(例:東京地裁限定)
7. 実務対応のチェックリスト
- インフルエンサー契約書の定期的な法的レビュー
- FTC開示ガイドラインの教育・確認プロセス整備
- 契約前後の投稿内容モニタリング体制の構築
本記事は情報提供を目的としたものであり、法的アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件についてはカリフォルニア州の弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和