カリフォルニア州の婚前契約
婚前契約をきちんと話し合えるカップルのほうが、財務面での信頼関係がしっかりしているように感じます。婚前契約は不信感の表れではなく、将来に向けた責任ある準備です。特に財産や負債の状況が複雑な場合、あいまいなままにしておくことのほうがリスクになります。
カリフォルニア州の法的根拠
カリフォルニア州は「統一婚前契約法(UPAA)」を採用していて、家族法第1600〜1617条がその根拠です。この法律はかなり細かく要件が定められており、きちんと作らないと「無効」と判断されることも珍しくありません。書面で作成すること、両者が署名すること——これは最低限の話です。
有効な婚前契約に必要な5つのこと
実務でよく見るのが「要件を一つ見落としていたせいで裁判所に認められなかった」というケースです。
① 必ず書面で 口約束は一切通用しません。契約は書面で作成し、両当事者が署名することが必須です。
② 財産・負債を全部オープンにする 不動産、投資、退職金、借金——すべてを正直に開示する必要があります。一方が重要な情報を隠していた場合、それだけで契約が無効になる可能性があります。
③ それぞれ別の弁護士をつける 「一人の弁護士で両方見てもらえばいい」と思う方がいますが、それは大きな落とし穴です。片方が弁護士なしで署名する場合は、その旨の権利放棄書が別途必要になります。
④ 強制や詐欺は一発アウト 「サインしなければ結婚しない」といったプレッシャーのもとで署名された契約は、裁判所で無効にされる可能性が高いです。合意はあくまで自由意志によるものでなければなりません。
⑤ 式の直前に慌てて作らない 少なくとも結婚の7日前までには完成させること。交渉・起草・確認には想像以上に時間がかかるため、式の3〜6か月前から準備を始めることをお勧めします。
何を決められて、何を決められないのか
決められること: 結婚前・結婚中・離婚時の財産の扱い、配偶者扶養料(条件あり)、生命保険の受取人、死亡時の財産処分、そのほか公序良俗に反しないこと全般。
決められないこと: 子どもの養育費・親権・面会交流は婚前契約の対象外です。これらは裁判所が子どもの最善の利益をもとに判断します。また、配偶者の職業選択を縛るような条項、違法行為を促進する条項も無効となります。契約締結時に著しく不公平な内容も、後に裁判所に否定される可能性があります。
カリフォルニア特有の話:コミュニティプロパティ
カリフォルニアはコミュニティプロパティ州です。結婚中に稼いだお金や購入した財産は原則として夫婦二人のものとなり、離婚時には半分ずつになります。
婚前契約を使えば、「この財産は個人のもの」と明確にしておくことができます。結婚前から事業を持っている方、前の結婚でお子さんがいる方、相続財産を守りたい方には特に重要な論点です。個別財産とコミュニティ財産の区別を契約で明確にしておくことで、離婚時の争いを大幅に減らすことができます。
また、配偶者扶養料の放棄・制限条項については注意が必要です。契約締結時に独立した弁護士の代理がなかった場合、内容が不公正だった場合、あるいは署名までに十分な検討時間がなかった場合には、その条項が無効とされることがあります。
「自分には関係ない」と思っている方へ
婚前契約は富裕層だけのものではありません。以下のような状況では、特に重要な意味を持ちます。
- 事業を所有している
- 前の結婚からのお子さんがいる
- 学生ローンや相当額の借金がある
- 親からの相続が見込まれる
- 一方が大きな資産、もう一方が大きな負債を持っている
こういった場合、あいまいなまま結婚することのほうがリスクです。「信頼しているからこそ、最初に話し合っておく」という考え方が、長期的には双方を守ることになります。
結婚後の見直しも可能
婚前契約は作ったら終わりではありません。結婚後に状況が変わった場合は、婚後契約や書面による修正で内容を変更することができます。いずれも書面と両者の署名が必要です。
どれだけ気をつけて作っても、要件を一つ見落とすだけで後々厄介なことになります。ネットのテンプレートだけで済ませることはお勧めできません。それぞれの状況に合った契約を作るために、経験ある弁護士のサポートを受けることが不可欠です。
免責事項:この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的アドバイスではありません。個別の状況については、必ず資格のある弁護士にご相談ください。
田中良和
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
サンフランシスコ / ベイエリア / ロサンゼルス
