アメリカのドラマでよく見られる「You have the right to remain silent…(あなたには黙秘権があります)」で始まるフレーズ――これが、いわゆるミランダ警告です。警察官が容疑者を逮捕し尋問を始める前にこの警告を読み上げるシーンは、アメリカのテレビドラマや映画では象徴的に描かれています。
このミランダ警告は、アメリカ合衆国の刑事司法制度における、被疑者の憲法上の権利を守るための重要な手続きです。ミランダ警告の法的背景、内容、そして逮捕・拘束された場合の対応方法について解説します。
ミランダ警告とは何か
ミランダ警告(Miranda Warning)は、1966年の連邦最高裁判所の判決「ミランダ対アリゾナ州(Miranda v. Arizona)」に由来します。この判決により、法執行機関は被疑者を「拘束下に置き、尋問する前」に、憲法上の権利について明確に告知する義務があるとされました。
この警告は、以下の内容を含むのが一般的です:
- あなたには黙秘権があります
- あなたの発言は、法廷であなたに不利な証拠として使用される可能性があります
- あなたには弁護士に相談する権利があります
- 弁護士を雇う余裕がない場合、国が無料で弁護士を手配します
ミランダ警告の実際の言葉
実際の警察官によるミランダ警告の言い回しは州や警察署によって多少異なりますが、典型的には以下のように告げられます:
あなたには黙秘権があります。あなたの発言はすべて、法廷であなたに不利な証拠として使用される可能性があります。あなたには弁護士と相談する権利があり、取り調べの間、弁護士の立ち会いを求めることができます。もし弁護士を雇う余裕がない場合は、無料で弁護士が任命されます。これらの権利を理解しましたか?
この警告は、次の2つの合衆国憲法上の権利に基づいています:
- 修正第5条:自己負罪拒否の権利(Self-incrimination clause)
- 修正第6条:弁護人を依頼する権利(Right to counsel)
ミランダ警告が必要となる状況
ミランダ警告は、次の2つの条件が同時に成立する場合にのみ必要です:
- 被疑者が「拘束下(custody)」にある場合
- 警察が「尋問(interrogation)」を行う場合
誤解しやすいポイント:
- 単に逮捕されたからといって、必ずしもミランダ警告が必要とは限りません。
尋問を伴わない場合(例:現行犯逮捕後に勾留されるのみ)、ミランダ警告は不要です。 - 逮捕されていなくても、事実上の拘束状態で尋問された場合には、警告が必要です。
ミランダ警告がなされなかった場合でも、そのこと自体で起訴が無効になるわけではありません。ただし、ミランダ警告なしに得られた供述は、通常、法廷で証拠として使用できなくなります(排除法則)。
逮捕または拘束された場合の対処法
1. 冷静さを保つ
感情的にならず、警察官の指示に従いましょう。抵抗や暴言は、不必要に事態を悪化させる可能性があります。
2. 黙秘権を行使する
単に黙っているだけでは足りず、「黙秘権を行使します(I am invoking my right to remain silent)」と明確に伝える必要があります。
3. 弁護士を要求する
「弁護士が来るまで質問には答えません(I want to speak to an attorney)」と主張してください。以後、弁護士が立ち会うまで警察は尋問を継続できません。
4. 通訳を要求する
英語が得意な人でも、拘留中は極度に緊張しています。必ず通訳を要求して、日本語通訳を介して取調べを受けましょう。
5. 個人情報以外は話さない
名前、住所、生年月日などの基本情報以外は答える必要はありません。警察官が雑談のように話しかけてきても、自分に不利となる内容を不用意に話さないようにしましょう。
6. 書類にサインしない
弁護士がいない状態で供述調書や同意書、自白書などにサインすることは避けてください。内容を完全に理解しないまま署名すると、不利な証拠として使われる恐れがあります。
ミランダ警告に関するよくある誤解
- 誤解①:警察がミランダ警告を読み忘れたら、逮捕自体が無効になる。
→ 誤りです。ミランダ警告がなされなかった場合でも、逮捕は合法であることが多く、問題となるのは供述の証拠能力だけです。 - 誤解②:ミランダ警告がない場合、すべての証拠が排除される。
→ 誤りです。警察が警告をしないまま得た供述の一部が排除されるにとどまり、それ以外の物的証拠や証人証言には影響しないことがあります。
まとめ
ミランダ警告は、被疑者の憲法上の権利を守るために存在します。もし逮捕や尋問される状況になった場合には、以下の3点が最も重要です:
- 冷静に対応すること
- 黙秘権を明確に主張すること
- 弁護士を要求すること
この3点を理解し、適切に行動することで、自分の権利を守り、正当な法的手続きが保証されます。万が一の場合には、経験豊富な刑事弁護士にすぐ相談することをおすすめします。
免責事項:この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を提供するものではありません。個別の事案については、必ず資格を有する弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和