日本企業同士の取引において、支払いが日本円建て・日本の銀行を通じて行われ、かつ商品の引渡しも日本国内で完了している場合、アメリカ連邦破産法第11章(Chapter 11)が関与する余地はないと思われがちです。しかし、取引当事者の一方がアメリカでChapter 11を申請した場合、その影響を完全に回避できるとは限りません。
一見、米国法の適用外に見えるケース
以下のような取引を想定します:
- 売主:日本法人A
- 買主:日本法人B(日本で登記された会社)
- 準拠法:日本法
- 支払い:日本円、三菱UFJ銀行など日本の銀行経由
- 商品の引渡し:東京都の倉庫にて
このように取引の全過程が日本国内で完結しており、通貨も日本円であれば、「アメリカ破産法の影響は及ばない」と考えるのが自然です。
それでもChapter 11の影響を受ける可能性
理論上、Chapter 11の命令や効力は、日本に所在する企業や日本国内の資産に対して直接適用されることはありません(いわゆる「域外適用なし」)。しかし、以下のような事情がある場合、実務的にはChapter 11手続への関与を余儀なくされる可能性があります。
1. 取引相手が米国で事業展開している
たとえ契約当事者が日本法人であっても、その企業がアメリカに支店や子会社を有し、米国内でChapter 11を申請した場合、その会社全体の債務が破産手続の対象となります。つまり、日本の親会社の債務も連邦破産裁判所の管理下に置かれる可能性があります。
2. 支払義務の履行がアメリカ法人からなされるケース
支払いが日本円で行われていても、実質的に支払を担っていたのが債務者の米国子会社・米国支店であれば、その履行義務はChapter 11の自動停止(Automatic Stay)の対象となります。
3. 日本国内の債務でも「管轄の争い」が起こり得る
仮に、日本での支払義務・引渡し義務があり、日本で訴訟を提起した場合でも、債務者がChapter 11を理由にアメリカの裁判所に移送を求めることがあります(Removal or Injunction)。その際、日米の裁判所で管轄争いが生じることも実務上想定されます。
実務上の影響:Chapter 11を「無視」できない理由
たとえ日本国内取引であっても、債権者が以下のいずれかに該当する場合、Chapter 11手続への関与が必要となる可能性があります:
- 支払遅延が発生し、債権の回収を検討している
- 債務者が米国内の資産で支払を担保している
- 債務者が再建計画(Plan of Reorganization)を策定中で、債権者として配当や投票を希望している
このような場合、たとえ契約実務が日本で完結していても、Proof of Claim(債権届出)を提出しなければ、配当を受ける資格を失うリスクがあります。
まとめ:完全な国内取引でも、相手の米国破産申立てで巻き込まれる可能性
Chapter 11には日本法に対する法的な域外適用はありませんが、取引相手の経済実態がアメリカと密接に結びついている場合には、日本国内で完結した取引であっても、実質的にはChapter 11手続に関与せざるを得ない場面が生じ得ます。
したがって、取引先の米国との関係性(現地法人・支店の有無、支払元の所在、破産申立ての内容など)を正確に把握し、必要に応じて迅速に対応することが極めて重要です。
本記事は一般的な法的情報の提供を目的とするものであり、具体的な案件については、カリフォルニア州または日本の弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和