交通事故において、事故の原因が一方当事者の過失によるものであることを証明するのは、しばしば困難です。しかし、カリフォルニア州ではある種の事故において「過失の推定(presumption of negligence)」が認められることがあります。これは、状況からして「通常、過失がなければ起こり得ない事故」である場合に、加害者側に過失があったと推定されるという法的考え方です。
Res Ipsa Loquitur(事実が物語る)とは?
カリフォルニア州では、「Res Ipsa Loquitur(レズ・イプサ・ロキター)」という法理が用いられます。これは、事故の状況自体が過失を示唆しており、通常そのような事故は注意義務を果たしていれば起こらない、という前提に立ちます。
この法理が適用される要件:
- 通常、過失がなければ起こり得ない事故であること
- 被告(加害者)がその対象物や状況を管理していたこと
- 原告(被害者)に過失がなかったこと
【例】交通事故での過失の推定が認められる場面
- 追突事故:信号待ちで停止していた車両に後方から追突した場合、後続車に過失があったと推定されます。
- 正面衝突事故:一方の車がセンターラインを越えて衝突した場合、センターラインを越えた側の車に過失が推定されます。
- 歩行者事故:横断歩道上で歩行者をはねた場合、ドライバーに過失があったと推定されることがあります。
過失が推定されるとどうなる?:立証責任の転換
カリフォルニア州では、過失が推定されると、被告(加害者側)が自ら過失がなかったことを証明する責任(立証責任)を負うことになります。
これは、通常であれば原告が「相手に過失があった」と証明しなければならないところを、逆に被告が「自分に過失はなかった」と反証しなければならないという仕組みです。
例:ブレーキの突然の故障や予測不能な第三者の行動による事故などを証明すれば、推定を覆せる可能性があります。
日本との違い:日本にはこのような制度は存在しない
日本の民事訴訟法では、基本的に「主張する者が証明責任を負う」という原則が貫かれています。つまり、日本では交通事故の被害者が加害者の過失をすべて立証しなければなりません。
この点において、カリフォルニア州の制度は原告(被害者)に有利であり、特定の事故状況では過失の立証が非常に容易になります。
実務上の意義:被害者にとって有利な制度
過失の推定は、証拠が限られている事故や、現場に証人がいない場合などにおいて、非常に強力な主張手段となります。
立証責任が転換されることで、被害者側が不利な立場に置かれることを防ぎ、正当な賠償を受けやすくなります。
まとめ
カリフォルニア州では、交通事故において過失が推定される場合、加害者側が「自らに過失がなかった」と証明しなければなりません。これは、立証責任の転換を意味し、原告にとっては大きな利点です。
こうした制度は、日本の民事訴訟制度には存在しないものであり、日米間での大きな法的アプローチの違いを示しています。事故に遭われた方は、早期に法的助言を受け、こうした制度を適切に活用することが重要です。
※本記事は一般的な法的情報を提供するものであり、特定の事案についての法的助言を構成するものではありません。具体的な状況については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和