カリフォルニア州で民事訴訟を行う際、「Tentative Ruling(仮裁定)」という制度があり、訴訟戦略に影響を与える重要な手続の一つです。
この制度は裁判所によって異なる運用がされており、特にローカルルールに従って対応する必要があります。
本記事では、Tentative Rulingの基本的な仕組みを解説したうえで、ロサンゼルス郡の実務運用を一例として紹介します。
Tentative Rulingとは?
Tentative Ruling(仮裁定)とは、カリフォルニア州の民事裁判において、申立(motion)に対し裁判官が口頭弁論の前に示す仮の判断のことをいいます。これはまだ「最終決定(order)」ではありませんが、裁判所の判断の方向性を早期に知ることができるため、訴訟当事者にとっては極めて重要な情報です。
Tentative Rulingの目的
- 裁判所の効率化:不要な口頭議論を減らし、法廷リソースを節約
- 予測可能性の提供:当事者に対し、裁判所の見解を事前に通知
- 当事者の準備促進:議論が必要な争点を明確化し、口頭弁論の焦点を絞る
運用の一般的な流れ
- 書面審理の完了:当事者がmoving papers、opposition、replyなど必要書類を提出
- Tentative Rulingの公表:通常、口頭弁論前日の午後に裁判官が仮裁定を発表
- 異議の有無による分岐:
- 異議なし:Tentative Rulingがそのまま正式な裁定となる
- 異議あり:当事者が口頭弁論を要求し、実際に法廷で議論が行われる
Tentative Rulingの運用例:ロサンゼルス郡を一例として
Tentative Rulingの運用は郡ごと、さらには裁判官ごとに異なります。ここでは、ロサンゼルス郡(Los Angeles County Superior Court)を一例として紹介します。
▶ ロサンゼルス郡における運用概要
- 発表時期:多くの民事部では、口頭弁論の前日午後2時以降にTentative Rulingを発表します。
- 掲載場所:裁判所の公式ウェブサイト上または、各裁判官の個別ポータルで確認可能です。
- 異議申立:Tentative Rulingに異議がある当事者は、翌日の午前8:30までに電話で裁判所に連絡し、口頭弁論を希望する意思を示す必要があります。
- 連絡がない場合:仮裁定はそのまま最終決定(order)となり、予定されていた口頭弁論はキャンセルされます。
- 例外:すべての裁判官がTentative Ruling制度を採用しているわけではありません。担当裁判官のstanding order(常設命令)や部ごとのルールを必ず確認しましょう。
実務上のポイント
- 異議の意思表示を怠らないこと:裁定に不満がある場合、決められた期限内に連絡しないと自動的に不服の余地を失うことになります。
- 戦略的な活用が可能:Tentative Rulingを読んだ時点で、議論の論点を絞る判断材料として活用可能です。
まとめ
Tentative Rulingは、単なる「仮の判断」ではなく、そのまま放置するとそのまま裁判官のオーダーになる重要な判断です。
特にロサンゼルス郡のような大規模裁判所では、Departmentごとに細かなルールがあるため、早期に確認・対応することが極めて重要です。
訴訟当事者や代理人弁護士は、Tentative Rulingの内容を的確に読み取り、必要な場合には速やかな異議申し立てが必要です。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の事案に対する法律的アドバイスを構成するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士、日本弁護士
田中良和