カリフォルニアでの不動産やビジネスの購入手続き中、残念ながら融資が降りなかったり、物件調査(インスペクション)の結果が思わしくなかったりして、購入を断念せざるを得ないことがあります。
あなたは契約にある「コンティンジェンシー(条件付き条項)」に基づき、正当な権利として「契約を解除したい」とエージェントにメールで伝えました。
ところがその後、エージェントや相手方から**「Demand to Close Escrow(エスクロークローズの要求)」**という書類が送られてきて、「これに署名してください」と言われたらどうしますか?
絶対に、そのまま署名してはいけません。
今回は、契約解除の場面で最も注意すべき書類の違いと、そのリスクについて解説します。
1. 「Demand to Close Escrow」とは何か?
まず、この書類の意味を明確に理解しましょう。
- Demand to Close Escrow (DCE): これは文字通り、「エスクローをクローズ(完了)させることを要求する」書類です。つまり、**「私は契約通りに代金を支払い、物件の引き渡しを受ける準備ができています。さあ、取引を完了させましょう」**という意思表示になります。
もし、あなたが「コンティンジェンシーが満たされないので解約したい」と考えているのにこの書類に署名して提出した場合、法的には**「解約の意思を撤回し、購入を進めることに合意した(コンティンジェンシーを放棄した)」**とみなされるリスクが非常に高くなります。
2. あなたが署名すべきは「Cancellation」です
コンティンジェンシー条項(Loan ContingencyやInspection Contingencyなど)に基づいて契約を白紙に戻したい場合、署名すべき正しい書類は以下のものです。
- Cancellation of Contract, Release of Deposit and Joint Escrow Instructions: (契約の解除、手付金の返還、およびエスクローへの合同指示書)
この書類こそが、「契約をキャンセルし、エスクローに入れてある手付金(Deposit)を返してほしい」という正式な意思表示です。
ここで起こりうる間違いのシナリオ
なぜ、解約したいのに「Demand to Close Escrow」が送られてくるのでしょうか?
- 売り手側からの圧力: 売り手(Seller)が「解約なんて認めない、契約通り買え」と圧力をかけるために、Demand to Close Escrowを送ってくることがあります(Notice to Performの一環として使われることもあります)。
- 手続き上の混乱: まれに、コミュニケーションの行き違いで、エージェント側が手続きを誤認しているケースも考えられます。
どのような理由であれ、「解約(Cancel)」したいのに「完了要求(Demand to Close)」にサインをするのは、行動と言動が完全に矛盾しています。
3. 「3日以内」という期限のプレッシャーに負けないでください
多くの場合、Demand to Close Escrow や Notice to Buyer to Perform といった書類には、**「受領後3日以内に回答せよ(さもなくば契約違反となる)」**といった厳しい期限が設けられています。
この「3 Days」という数字を見ると、多くの人はパニックになり、「とりあえず送られてきた書類にサインをして返信しなければ!」と焦ってしまいます。
しかし、ここで冷静になってください。
- 期限内に回答することは重要ですが、「間違った書類」にサインをして回答してはいけません。
- 正しい回答とは、「Demand to Close Escrow」にサインすることではなく、正式な「Cancellation of Contract」を提出することであるはずです。
4. 結論:署名前に必ず確認を
不動産やビジネスの売買契約書(Purchase Agreement)は、法的な拘束力を持つ強力な文書です。
もし、コンティンジェンシーを理由に解約を申し出たにもかかわらず、Demand to Close Escrowへの署名を求められた場合は、以下のステップを踏んでください。
- 署名を保留する: その場ですぐにサインをしてはいけません。
- エージェントに確認する: 「私はキャンセルしたいと伝えました。なぜCancellationフォームではなく、Demand to Closeにサインする必要があるのですか?」と文書(メール)で質問してください。
- 専門家に相談する: エージェントの説明が曖昧だったり、相手方から法的な圧力を感じたりする場合は、直ちに弁護士に相談してください。
ボタン一つ(電子署名)で完了できてしまう時代だからこそ、そのワンクリックが「数千万円〜数億円の支払い義務」を確定させてしまう恐怖を忘れないようにしましょう。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、法的なアドバイスではありません。個別の案件については必ず専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ・ベイエリア・ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
