― 全財産を第三者に遺贈した遺言は有効か?子供は何ももらえないのか ―
日本からカリフォルニアに移住された方、あるいはそのご家族からよく寄せられる相談の一つに、**「日米をまたぐ相続トラブル」**があります。
特に、アメリカの文化に触れる中で、
「自分の財産は自分の好きなように処分したい」
と考え、日本の法定相続を無視した遺言を作成されるケースは少なくありません。
今回は、実際にあったご相談をベースに、次の疑問について解説します。
カリフォルニアに住む日本人が、全財産を子供以外の第三者に譲ると遺言した場合、子供は本当に何ももらえないのか?
今回のご相談ケース
相談者:
日本在住のAさん(長男)
状況:
Aさんの父親は、長年カリフォルニア州に居住しており、先日現地で亡くなりました。父親は日本国籍のままでした。
死後、父親の遺言書(Will)が見つかりましたが、そこには次のように記載されていました。
「カリフォルニア州在住の女性Bさんに、私の全ての財産を遺贈する」
Aさんは次の点について悩んでいます。
- 自分は一人息子なのに、父の財産を一切受け取れないのか
- 日本の法律にある**「遺留分」**は主張できないのか
結論:子供は「遺留分」を請求できます
結論から申し上げると、AさんはBさんに対して「遺留分侵害額請求」を行い、財産を取り戻すことが可能です。
では、なぜカリフォルニアに住んでいたにもかかわらず、日本の法律が関係してくるのでしょうか。
ポイントは次の 2点 です。
ポイント① 亡くなった人が「日本人」であれば、日本法が適用される
アメリカ(カリフォルニア州)に居住していても、
被相続人(亡くなった方)が日本国籍を保持している場合、相続の基本ルールには日本法が適用されるケースが多くあります。
これは、**国際私法(どの国の法律を使うかを決めるルール)**に基づくものです。
日本では、
- 日本人の相続については
- 原則として「本国法(=日本法)」を適用する
という考え方が採られています。
したがって、今回のケースでも、
お父様の相続関係全体には日本の民法が適用されることになります。
ポイント② 「遺留分」は強行法規(必ず守らなければならないルール)
日本の民法には、兄弟姉妹を除く法定相続人(子・配偶者など)に対して、
最低限の相続分を保障する制度として、
「遺留分(いりゅうぶん)」
が定められています。
アメリカ(カリフォルニア州)との大きな違い
- カリフォルニア州では
- 遺言者の自由が非常に強く尊重され
- 子供であっても、遺言で 「相続させない(Disinherit)」 と明記されれば、原則として財産はもらえません
- 一方、日本法では
- 遺留分は 「強行法規」
- 当事者の意思で排除することはできません
つまり、
いくら遺言書に
「Bさんに全ての財産を与える」
と書いてあっても、
子供の遺留分を侵害することは許されない
という扱いになります。
結論まとめ:子供は遺留分侵害額請求が可能
今回のご相談ケースについて整理すると、結論は次のとおりです。
- 適用法
亡くなったお父様は日本国籍のため、日本法が適用 - 権利の内容
日本法上の「遺留分」は、遺言よりも優先される強力な権利 - 最終結果
お子さん(Aさん)は、
全財産を受け取ったカリフォルニア在住の女性(Bさん)に対し、
**「遺留分侵害額請求」**として、
自身の取り分に相当する金銭等の返還を求めることができます。
国際相続は専門家への相談が不可欠です
「海外に住んでいるから、日本の法律は関係ない」
と思い込んで遺言を作成すると、
- 残された家族間で深刻な紛争が生じ
- 結果的に、遺言者の希望どおりにならない
という事態が少なくありません。
また、実際の手続きでは、
- カリフォルニア州の Probate Court(検認裁判所)
- 日本の相続法・遺留分の法律論
が複雑に絡み合います。
日米双方の法律を理解した専門家のサポートが不可欠です。
当事務所では、こうしたクロスボーダー相続案件にも対応しております。
お困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
【免責事項(Disclaimer)】
本記事の内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、
特定の案件に対する法的助言(リーガルアドバイス)を構成するものではありません。
具体的な事案については、事実関係や状況により結論が異なる場合があります。
法的判断が必要な場合は、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
