カリフォルニア州に居住する配偶者が、カリフォルニアに一度も住んだことのない相手方に対して離婚裁判を起こすことは可能でしょうか?
カリフォルニアに住む夫が、海外や他州に住む妻に対して離婚を申し立てたい——このようなケースは、国際結婚や長距離別居が増える現代において珍しいことではありません。しかし、相手方が一度もカリフォルニアに住んだことがない場合、そもそも離婚裁判を起こすことが可能なのか?と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、離婚の申立てが可能な条件、「人的管轄(personal jurisdiction)」の有無がどのような法的影響を持つのか、また注意すべき実務上のポイントについて、カリフォルニア州の法律に基づいて詳しく解説します。
1. カリフォルニアで離婚裁判を提起できる条件
まず大前提として、離婚そのもの(婚姻関係の解消)をカリフォルニアで行うためには、以下の居住要件を満たす必要があります(Family Code § 2320):
- 申立人がカリフォルニア州に過去6か月以上連続して居住していること
- さらに、申立てを行う郡に過去3か月以上居住していること
したがって、配偶者がカリフォルニアに住んでいなくても、申立人(たとえば夫)がこれらの居住要件を満たしていれば、カリフォルニア州で離婚裁判を起こすことは可能です。
2. 「人的管轄(Personal Jurisdiction)」とは?
ただし、離婚裁判においてもうひとつ重要なのが「人的管轄権(personal jurisdiction)」です。これは、裁判所が特定の当事者に対して法的拘束力のある命令を出す権限があるかどうかを意味します。
相手方(たとえば妻)がカリフォルニアに一度も住んだことがない、財産も仕事もない、カリフォルニアとの実質的な接点がない場合、カリフォルニア州裁判所はその相手方に対して人的管轄を持たないとされる可能性があります(International Shoe Co. v. Washington (1945) 326 U.S. 310)。
3. 人的管轄がない場合、何ができて、何ができないのか?
相手方に対してカリフォルニア州裁判所が人的管轄を有しない場合でも、婚姻関係の解消(status-only judgment)は可能です。これは、相手方が応答しない、あるいは管轄に異議を唱えたとしても、一定の法的手続きを経て離婚判決を得ることができるという意味です。
しかし、その場合は以下の重要な命令を出すことはできません:
- 配偶者扶養(spousal support)の命令
- 財産分与の命令(community property の分割)
- 養育費(child support)の命令
特に養育費や親権に関しては、子どもがカリフォルニアに住んでいる場合には、Uniform Child Custody Jurisdiction and Enforcement Act(UCCJEA)に基づき、別の形での管轄が認められることもありますが、配偶者に対して金銭的命令を出すには基本的に人的管轄が必要です。
4. 実務上の対応と戦略
このようなケースでは、次のような戦略的対応が求められます:
- 相手方に対する管轄の有無を事前に調査する
- 必要であれば、相手方の居住地(たとえば日本や他州)で別途扶養・財産分与などを請求する
- 相手方が同意する場合、stipulated judgment(合意による判決)を検討する
カリフォルニアで離婚判決を得ることは可能ですが、全面的な救済(財産分与・扶養など)を望む場合は相手方の管轄がある裁判所での手続が必要となるケースが多いのです。
5. まとめ:離婚裁判はできるが、制限がある
カリフォルニア州に居住する配偶者は、たとえ相手がカリフォルニアに一度も住んだことがなくても、離婚裁判を起こすことができます。しかし、人的管轄がない場合、婚姻関係を解消する「ステータス判決」のみが可能であり、扶養・養育費・財産分与などの命令を得ることはできません。
このような州際・国際離婚には専門的な判断が求められるため、日本法・カリフォルニア法の両方に通じた弁護士への相談が極めて重要です。
免責事項:
本記事は一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、特定の事案についての法律相談を構成するものではありません。個別の状況に応じた対応には、必ず資格ある弁護士へのご相談をお勧めします。
本記事は一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、特定の事案についての法律相談を構成するものではありません。個別の状況に応じた判断には、資格ある弁護士へのご相談をお勧めします。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和