1. 発端となったICEによる強制捜査(6月6日)
6月6日、ロサンゼルスのファッション地区やホームデポでICE(移民・関税取締局)が移民に対して強制捜査を実施しました。これに対し市民による抗議活動が始まり、催涙弾の使用や警察との衝突が発生しました。一部地域では火炎瓶や車両放火も確認されています。
2. 全国への波及と都市の混乱
抗議活動はコムプトンやパラマウントをはじめ、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴなど全米40都市以上に拡大しました。ロサンゼルス市では夜間外出禁止令が発令され、数百名が逮捕される事態となっています。
3. 軍・州兵・海兵隊の出動
トランプ大統領は、州知事の同意なく州兵約4,000名と海兵隊700名をロサンゼルスに展開。これにより連邦と州政府との間に深刻な対立が発生しました。6月13日には海兵隊による初の民間人拘束も確認されています。
4. 州・司法の対抗措置
カリフォルニア州知事ガビン・ニューソムは、連邦による州兵の指揮権奪取が憲法違反であるとして訴訟を提起。6月12日には連邦地裁が州側の主張を認め、州兵の連邦化を一時差し止める仮命令(TRO)を発令しました。しかし第9巡回控訴裁はこの命令を一時停止し、連邦の指揮継続を許可しました。
軍出動に関する法的論争
1. 10 U.S.C. § 12406(州兵の連邦動員)
この条文は、「侵略」「反乱」「連邦法の執行不能」時に大統領が州兵を連邦動員できると定めています。しかし、抗議活動は反乱とは言えないという裁判所の判断により、適用は不適切との指摘が出ています。また「州知事を通じて命令を発する」条項も無視されていました。
2. Posse Comitatus Act(18 U.S.C. § 1385)
この連邦法により、陸軍や空軍が国内で警察権を行使することは禁止されています。海兵隊についても事実上これに準ずる運用がされており、今回の拘束事例は同法違反の疑いが持たれています。
3. 憲法第10修正条項(Tenth Amendment)
連邦憲法第10修正は、連邦政府に明示されていない権限は州に留保されると規定しています。州兵の指揮権は原則として州知事にあるため、知事の不同意による連邦化は憲法違反となる可能性があります。
4. Insurrection Act(10 U.S.C. §§ 251–255)
反乱や暴動などが発生した場合に限り、軍の国内出動を許可する例外法です。ただし、平和的な抗議行動や限定的な暴力ではこの法律の適用は難しいとされています。
まとめ:法制度から見た今回の問題
- 州 vs. 連邦:州兵の指揮権をめぐる権限対立
- 軍の国内使用:Posse Comitatus法と憲法の制限
- 法的前例形成:今後の軍動員ルールに大きな影響
控訴審以降の裁判所の判断は、国内における軍の利用と州権のバランスという憲法の根幹に関わる重要な前例となる可能性があります。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和