カリフォルニア州では、適切な相続計画がないまま財産を残すと、相続人は煩雑で時間のかかるプロベート(検認)手続を強いられることがあります。この手続を回避し、財産を円滑かつ効率的に移転する方法として、リビングトラスト(生前信託)が多くの州民に選ばれています。
リビングトラストの基本的な仕組み、プロベートを回避するメリット、そして相続税対策としての可能性について解説します。
リビングトラストとは
リビングトラスト(revocable living trust)は、個人(委託者)が生前に設立し、自らの財産を信託名義に移転することで、死亡後の財産分配をスムーズに行える法的枠組みです。
委託者は通常、自らを信託の受託者として指定し、生前は財産の完全な管理・運用を継続できます。死亡後は、あらかじめ指名された後継受託者(successor trustee)が裁判所の監督なしに、信託条項に基づいて財産を受益者(beneficiaries)へ分配します。
カリフォルニア州では不動産価格が高く、多くの家庭で財産総額が$184,500(2024年現在)を超えてしまうため、リビングトラストは中流層にとっても非常に実用的な制度です。
プロベート回避による主なメリット
1. 時間の節約
カリフォルニア州のプロベートには通常9か月〜1年以上かかりますが、リビングトラストでは数週間〜数か月で資産の移転が可能です。
2. 手続費用の削減
プロベートでは、以下のように遺言執行人と弁護士の法定報酬が発生します:
- 最初の $100,000 に対して 4%
- 次の $100,000 に対して 3%
- 次の $800,000 に対して 2%
- 次の $9,000,000 に対して 1%
例:$1,000,000の遺産の場合、弁護士と遺言執行者にそれぞれ$23,000、計$46,000程度が必要です。リビングトラストではこれらのコストを大幅に削減できます。
3. プライバシーの保護
プロベート手続きは公的記録であり、誰でも閲覧可能です。これに対し、リビングトラストは非公開です。
相続税・資産管理上の利点
1. 連邦相続税の非課税枠活用
2023年現在、相続税の非課税枠は以下の通りです:
- 個人:$12.92百万ドル
- 夫婦合算:$25.84百万ドル
ただし、2026年にはこれらの非課税枠が約半分に縮小される見込みです。夫婦で設計したリビングトラストで、枠を最大限に活用できます。
2. 課税評価額の引き上げ(Step-up in Basis)
リビングトラストを通じて相続された資産も、被相続人の死亡時点の時価で評価されるため、キャピタルゲイン税の回避が可能です。
3. 不動産税の保護(Proposition 13・19)
一定の条件を満たせば、リビングトラストを通じた親から子への不動産移転でも、税評価額の据え置き(Prop 13の保護)や引き継ぎ(Prop 19の例外)を受けられます。
注意点:所得分散による節税は不可
撤回可能なリビングトラストは税務上、委託者がそのまま課税対象となるため、所得分散による節税はできません。
リビングトラストを検討すべきケース
- カリフォルニア州に不動産を所有している
- 財産総額が $184,500 を超える
- プライバシーを重視したい
- 認知症や障害への備えをしたい
- 複雑な家族構成(再婚家庭・異母兄弟等)がある
- 未成年の子や特別支援が必要な受益者がいる
まとめ
リビングトラストは、カリフォルニア州において費用削減・時間短縮・プライバシー保護を実現する効果的な相続対策です。
加えて、連邦相続税・不動産税対策にも一定の効果を発揮します。ただし、信託の設計には専門的な知識が必要なため、必ず弁護士にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。ご自身の状況に応じたアドバイスについては、資格ある法律専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和