田中良和国際法律事務所

カリフォルニア州におけるPersonal Injuryと保険会社の求償権の扱い

Personal Injury(人身損害)事件において、原告が治療費などをカバーする保険に加入している場合、しばしば「誰が被告に対して請求できるのか」という問題が発生します。特に、保険会社が原告に代わって医療費などを支払った場合、保険会社自身が直接被告(加害者)に対して求償できるのかが争点となります。

カリフォルニア州の判例法に基づくと、保険会社は原告の代位者(subrogee)として直接被告に請求することはできません。被告に対する損害賠償請求権は、あくまで原告(被害者本人)に帰属するからです。
そのため、保険会社が医療費を支払った場合でも、その分を回収するのは「原告を通じて」行わなければなりません。

実務上は、原告の弁護士が訴訟を提起し、被告に対して「原告が自己負担した額」だけでなく「保険会社が支払った額」も含めて請求を行います。そして、和解または判決で回収した金額の中から、原告が保険会社に対して清算(reimbursement)する仕組みがとられます。
この方法によって、被告は一括して原告に対して支払いを行い、保険会社は原告を通じて補償を受けることになります。

ここで重要になるのが Common Fund Doctrine(共通基金の原則) です。
原告が弁護士を雇い、訴訟を通じて「原告と保険会社が共通して利益を受ける基金(損害賠償金)」を回収した場合、保険会社は弁護士費用の一定割合を負担する義務があります。
言い換えれば、原告は回収した保険会社の分を「弁護士費用分だけ減額」して支払うことが認められます。

例えば:

  • 保険会社が原告の医療費として $50,000 を支払っていた
  • 原告が弁護士を通じて訴訟し、被告から $100,000 を回収した
  • 弁護士費用が 回収額の 1/3 だった場合

保険会社への返済は、$50,000 全額ではなく $50,000 × (1 – 1/3) = 約 $33,333 に減額されます。
これにより、弁護士を雇って回収作業を担った原告側にとって不公平が生じないよう配慮されています。

  • 保険会社は直接被告に求償できない
  • 原告が訴訟を起こし、保険会社分を含めて請求する
  • 原告は「Common Fund Doctrine」に基づき、保険会社への返還額を弁護士費用分減額できる

この仕組みは、保険会社が「ただ乗り」して利益を受けることを防ぎ、原告が弁護士費用の負担で不利にならないようにするものです。


※本記事は一般的な法的情報の提供を目的とするものであり、法律相談に該当するものではありません。具体的な案件については、必ずカリフォルニア州の弁護士にご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

上部へスクロール