海外移住が増える現代において、異なる法域における相続法の理解は重要です。日本の相続法とカリフォルニア州の相続法における主要な違いを解説します。特に、法定相続人の範囲、遺留分制度の有無、プロベート(検認)手続の必要性について解説します。
法定相続人の範囲
日本の法定相続人制度
日本の民法では、法定相続人は以下の順位で定められています:
第一順位:配偶者と子
- 配偶者は常に相続人となります。
- 子がいる場合:配偶者が1/2、子が1/2を相続(子が複数の場合は均等分割)。
- 子が死亡している場合は、孫が代襲相続します。
第二順位:配偶者と直系尊属(親、祖父母)
- 子がいない場合、配偶者が2/3、直系尊属が1/3を相続。
第三順位:配偶者と兄弟姉妹
- 子も直系尊属もいない場合、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4を相続。
- 兄弟姉妹が死亡している場合、その子(甥・姪)が代襲相続。
補足:
養子は実子と同等の相続権を持ちます。
内縁関係(事実婚)のパートナーには、法定相続権は原則として認められません。
カリフォルニア州の法定相続人制度(Intestate Succession)
カリフォルニア州では、遺言がない場合の分配は以下のとおりです(Cal. Prob. Code §6400以降):
配偶者と子がいる場合
- 夫婦共有財産(Community Property):配偶者が全額相続。
- 単独所有財産(Separate Property):
- 子が1人:配偶者と子で1/2ずつ。
- 子が複数:配偶者が1/3、子が2/3を分割。
配偶者はいるが子がいない場合
- 共有財産:配偶者が全額相続。
- 単独所有財産:
- 親が健在:配偶者と親で1/2ずつ。
- 親がいない場合:配偶者1/2、兄弟姉妹1/2。
配偶者がいないが子がいる場合
- 子が全財産を相続。
配偶者も子もいない場合
- 親 → 兄弟姉妹 → 甥姪 → 祖父母 → 叔父叔母の順に相続。
補足:
カリフォルニアでは、登録された同性パートナー(Registered Domestic Partner)は配偶者と同等の相続権を有します。
事実婚パートナーには、日本と同様、法定相続権は原則ありません。
遺留分制度の比較
日本の遺留分制度
- 遺留分権利者:配偶者、子、直系尊属(※兄弟姉妹は対象外)
- 遺留分の割合:
- 通常:法定相続分の1/2
- 相続人が直系尊属のみ:1/3
- 侵害された相続人は、金銭での返還(遺留分侵害額請求)を求めることが可能
カリフォルニア州の制度
- 遺留分制度は存在しない(Testamentary Freedom)
- ただし以下のような制限的保護あり:
- 配偶者:夫婦共有財産の1/2は自動的に配偶者のもの
- 子:出生後に記載漏れされた子(Pretermitted Child)には相続権
プロベート(検認)手続の必要性
日本の相続手続
- 相続は死亡時に自動開始
- 相続人間での遺産分割協議
- 遺言がある場合:
- 公正証書遺言:検認不要
- 自筆証書遺言:家庭裁判所で検認必要(ただし法務局保管なら不要)
カリフォルニア州のプロベート制度
- $184,500(2025年)超の財産にはプロベート手続が必要
- 主な手順:
- 遺言執行者または管理人の選任
- 債権者通知・債務支払い
- 財産目録・評価
- 税務申告と納付
- 財産分配と裁判所の承認
- プロベート回避手段:
- リビングトラスト
- 共同名義(Joint Tenancy)
- POD/TOD口座
- 小規模財産手続(Small Estate Affidavit)
比較表:主な相違点
項目 | 日本 | カリフォルニア州 |
---|---|---|
法定相続人 | 配偶者+(子→直系尊属→兄弟姉妹) | 家族構成によりCommunity/Sep. Propertyで異なる |
遺留分制度 | あり(配偶者・子・直系尊属) | なし(原則自由、一定の保護あり) |
プロベート手続き | 原則不要(自筆遺言は検認) | $184,500超の財産に必要 |
国際的な相続計画の重要性
日本とカリフォルニア州の両方に資産を持つ方は、両国の制度を踏まえた相続対策が不可欠です。
- 国際的な遺言の作成
- 信託の活用(リビングトラストなど)
- 税務対策(二重課税リスクの軽減)
- 専門家への相談(日米両国の法務・税務に通じた専門家)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の相続や資産承継については、日本およびカリフォルニア州の法律に精通した専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和