カリフォルニア州の離婚裁判等で養育費の支払いが命じられた後、相手方(元配偶者)が日本に帰国し、養育費の支払いを拒否または滞納している場合の対応方法について解説します。アメリカと日本の間には国際的な執行制度が整備されており、適切な手続を踏むことで、日本国内でも養育費の回収を進めることが可能です。
養育費の国際的な回収は一見困難に思えるかもしれませんが、日本法とカリフォルニア州法の両方をうまく活用すれば、実効的な回収を図ることができます。
カリフォルニア州のChild Support Services(CSS)とは
カリフォルニア州では、Child Support Services(CSS)が養育費の決定・回収・強制執行を支援しています。CSSは連邦法および州法に基づく公的機関で、親子関係の確立や支払いの管理など、子どもの福祉を守るサービスを提供しています。配偶者がカリフォルニア州内にいる場合は、CSSを利用して、養育費を回収することが可能です。
CSSの主なサービス
- 親子関係の確認(パターニティの確立)
- 養育費額の決定と裁判所命令の取得
- 養育費の徴収と支払いの管理
- 未払いに対する強制執行(給与差押えなど)
- 医療保険の加入支援
- 養育費額の見直し対応
CSSを利用するメリット
- 専門家による無料または低コストの支援
- 州の権限に基づく給与差押え等の法的手続きが可能
- 他州・外国に居住する相手にも対応可能
日本に帰国した元配偶者からの養育費回収
カリフォルニア州の裁判所で取得した養育費命令は、日本国内でも強制執行が可能です。外国判決の「承認・執行」に関する手続により、日本の裁判所で法的効力を得ることができます。
カリフォルニア判決の日本での執行手順
- カリフォルニア州の裁判所でで確定した養育費命令を取得
- 判決文を日本語に翻訳し、公証・アポスティーユを取得
- 日本の家庭裁判所に「外国判決の承認・執行」を申立て
- 承認されれば、日本国内で強制執行が可能に
日本で外国判決を執行するための民事訴訟法上の要件(民訴法第118条)
- その判決が確定していること
- 被告に適正な手続(送達等)が保障されていること
- 日本の公序良俗に反しないこと
- 日本の裁判所の専属管轄事項でないこと
- 相互の承認・執行が認められている国の判決であること(アメリカとは成立)
給与差押えの有効性と心理的効果
日本では、養育費を支払わない相手に対して裁判所の命令に基づき給与を差し押さえることができます。通常は給与の最大4分の1までが対象ですが、養育費など扶養義務に関する債権は優先されます。
実務上の心理的効果
日本の企業文化では、職場に金銭トラブルが知られることを強く嫌う傾向があります。そのため、以下のような反応がよく見られます:
- 弁護士からの「差押え通知」だけで支払いに応じる
- 実際に差押手続を始める前に和解や分割払いの提案がある
- 会社に知られたくないため、支払いが再開される
このように、差押えの通知だけで十分な心理的プレッシャーとなり、任意の支払いを促す効果が高いとされています。
国際的な養育費回収の進め方(まとめ)
- カリフォルニア州の裁判所で養育費支払命令を取得
- 翻訳・証明など必要書類を整備
- 日本の裁判所で「承認・執行」を申立て
- 弁護士と連携し、日本国内での強制執行を実施(給料の差押えなど)
まとめ
カリフォルニア州で養育費の判決を取得すれば、相手が日本に帰国してもその判決を日本で執行することが可能です。CSSの支援と民事訴訟法に基づく手続を活用することで、国際的な養育費回収を実現できます。
特に日本では、給与差押え通知の心理的効果が強く、実際に手続を進める前に任意の支払いが再開されるケースが多くあります。日本法とカリフォルニア州法に詳しい弁護士と連携し、対応することが重要です。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的助言ではありません。具体的な状況については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和