カリフォルニア州の民事訴訟において、Motionをファイルする際に必要となる書類の一つが「Proposed Order」です。この制度は、日本の法制度には存在しない独特のシステムであり、アメリカの訴訟実務の効率性を象徴する重要な要素といえます。
日本の裁判で、弁護士が裁判官の判決案をドラフトすることはないので、日本の弁護士からすると非常に興味深い制度です。
Proposed Orderとは何か
Proposed Orderとは、Motion(申立て)を提出する際に、申立人の弁護士が裁判所に対して「このような命令を出してください」という形で起案する判決書の草案です。文字通り「提案された命令」という意味で、裁判官がそのまま署名すれば正式な裁判所命令となる書式で作成されます。
Proposed Orderの特徴
- 具体的な救済内容の明示
- Motionで求める救済の具体的内容を命令形式で記載
- 期限、条件、制裁措置なども詳細に規定
- 裁判官が判断を下しやすい形式で整理
- 効率的な裁判運営への貢献
- 裁判官の時間節約
- 命令内容の明確化
- 当事者間の認識齟齬の防止
- 戦略的な文書作成
- 依頼者に有利な文言の提案
- 相手方への心理的プレッシャー
- 交渉材料としての機能
実務上の作成ポイント
必須記載事項
- 事件番号、当事者名
- Motion hearing の日付
- 具体的な命令内容
- 裁判官の署名欄
- 日付欄
文体と表現
- 簡潔で明確な命令調の文体
- 法的根拠の簡潔な記載
- 実行可能性を考慮した現実的な内容
よくある注意点
- 過度に一方的な内容は裁判官に却下される可能性
- 相手方の権利を不当に制限する条項は修正される
- 実務上実行困難な命令は受け入れられない
日本の制度との根本的違い
日本における判決起案制度の不存在
日本の民事訴訟制度では、弁護士が裁判所の判決や決定を代わりに起案するという制度は存在しません。これは以下の理由によるものです:
- 司法権の独立性
- 判決は裁判官の独立した判断に基づくものでなければならない
- 当事者による判決案の提示は司法権への不当な介入と捉えられる
- 裁判官の心証形成への影響を避ける必要性
- 職権主義的要素
- 裁判官が職権で事実認定と法的判断を行う
- 当事者の主張は参考にとどまり、判決内容は裁判官が独自に決定
- 三権分立の観点からの慎重な制度設計
- 法文化の違い
- 成文法主義に基づく厳格な手続き重視
- 裁判官の権威と独立性を重んじる文化
- 当事者主義よりも職権主義的色彩が強い
アメリカ制度の合理性
一方、アメリカのProposed Order制度には以下の合理性があります:
- 効率性の追求
- 裁判官の負担軽減により迅速な処理が可能
- 標準的な命令内容の定型化
- 法廷の時間節約
- 当事者主義の徹底
- 当事者が最も詳しい事案について具体的提案
- 実務的な実行可能性の確保
- 和解促進効果
実践的な活用戦略
- Motion戦略との一体的検討: Proposed Orderは単なる書式ではなく、Motion全体の戦略の一部として位置づけることが重要です。
- 相手方の反応予測: 相手方がどのような反対論を展開するかを予想し、それに対する備えをProposed Orderに織り込むことが効果的です。
- 段階的救済の提案: 一度に全ての救済を求めるのではなく、段階的な命令を提案することで裁判官の受け入れやすさを高めることができます。
まとめ
Proposed Orderは、カリフォルニア州をはじめとするアメリカの民事訴訟制度における重要な実務書類です。日本の制度では考えられない「弁護士による判決草案の作成」という発想は、両国の法制度の根本的な違いを象徴しています。
日本の弁護士がアメリカの案件に関わる際、または日本でアメリカ法に基づく手続きを理解する必要がある場合には、この制度の存在とその背景にある法思想の違いを十分に理解することが不可欠です。
効率性と当事者主義を重視するアメリカ制度と、司法権の独立性と職権主義を重んじる日本制度、それぞれに固有の価値と合理性があることを認識し、適切な実務対応を行っていくことが求められています。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法律的アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、必ず管轄法域の弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和