あまり知られていませんが、カリフォルニア州には「Private Attorneys General Act(PAGA)」という法律があり、雇用主と従業員にとって重要な法律です。PAGAの基本的な仕組み、訴訟リスク、強制仲裁との関係、最新の法改正動向、具体的事例を含め、解説します。
PAGAとは何か?|概要と目的
Private Attorneys General Act(PAGA)は、2004年にカリフォルニア州で制定された法律で、従業員が州政府に代わって労働法違反を訴えることを可能にする制度です。
通常、労働基準法(Labor Code)違反の取り締まりは州の労働局(LWDA)が担いますが、人手不足や予算の制約により、すべての違反を取り締まるのは困難です。PAGAはそのギャップを埋めるために設けられました。
PAGAによる代表訴訟の仕組み
PAGAでは、従業員が他の従業員を代表して、企業の労働法違反を訴えることができます。以下の3つの違反タイプが対象となります:
- カリフォルニア労働法に明記された違反行為
- 複数の従業員に共通する制度的な違反
- 罰則規定が明示されていない場合でもPAGA独自の罰則を適用可能
通知義務
訴訟を提起する前に、従業員は労働局(LWDA)に書面で通知しなければなりません。通知後、通常65日間の調査・是正猶予期間が設けられます。
PAGA請求の例
PAGA訴訟は、以下のような労働違反を対象として頻繁に提起されています:
- 休憩時間・食事時間の未提供
例:6時間以上勤務しても食事休憩が取れなかった。
→ Labor Code § 512違反 - 未払い残業代の放置
例:業務終了後の片付けやミーティングが労働時間に含まれていない。
→ § 510、§ 1194違反 - 最終賃金の未払い
例:退職後72時間以内に給与が支払われていない。
→ § 201–203違反 - 正社員としての分類ミス
例:実態が従業員なのに独立請負人として扱われている。
→ § 2750.3違反
これらの違反が数百人単位に及ぶと、企業にとっては数十万~数百万ドル規模のリスクとなることもあります。
PAGA訴訟の影響とリスク
雇用主にとってのリスク
- 集団訴訟的な影響力:一人の従業員が他の従業員の代表として訴訟可能。
- 民事ペナルティの蓄積:違反1件あたり初回100ドル、2回目以降200ドル。
- 弁護士費用・損害賠償の付加も考慮すべき要素。
最新動向|PAGA改革の動き
- 2024〜2025年にかけて、PAGA改革法案が複数提出。
- 2025年11月、住民投票でPAGA制度の見直しを問う動きが報道される。
雇用主が取るべき対策
労働法の違反がない仕組みを作るのが重要
- 就業規則・休憩ポリシーの精査
- 労働時間・タイムカードの適正管理
- 内部通報制度・苦情対応フローの整備
- 労務監査やコンプライアンス研修の定期実施
まとめ|PAGA対策は早期の行動がカギ
- PAGAは企業に大きな財務・ reputational リスクをもたらす。
- 定期的な監査・記録の整備・制度設計が最良の予防策。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律上の助言を構成するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和