トランプ大統領はその政権下で、中国や欧州、日本などに対して大規模な追加関税を課す、いわゆる「トランプ関税」を実施しました。これらの関税は国際社会で論争を呼びましたが、そもそもアメリカ大統領には、どのような法的根拠に基づいて関税を設定する権限があるのでしょうか?主にトランプ政権時代に用いられた通商関連法の条文とその背景について、カリフォルニア州弁護士の視点から詳しく解説します。
1. 大統領に認められる通商権限とは?
アメリカ合衆国憲法では、通商を規制する権限は基本的に連邦議会にあります(合衆国憲法 第1条第8節)。しかし、複数の連邦法が、大統領に対して一定の条件下で独自に関税などの通商措置を講じる権限を委任しています。以下はその主要な法的根拠です。
1-1. 通商拡大法(Trade Expansion Act of 1962)第232条
通称「セクション232」(19 U.S.C. § 1862)は、「国家安全保障を脅かす恐れがある輸入品」に対して、大統領が関税その他の制限措置を課すことを認めるものです。
トランプ大統領はこの規定を用いて、鉄鋼およびアルミニウム製品に追加関税を課しました(2018年)。
1-2. 通商法(Trade Act of 1974)第301条
「セクション301」(19 U.S.C. § 2411)は、外国の貿易慣行がアメリカの貿易上の利益を損なう場合に、大統領が報復関税や制裁措置を取ることを認める条項です。
トランプ大統領はこれを根拠に、中国の知的財産権侵害や不公正な市場アクセス制限に対抗する形で、中国製品に対して数段階にわたる高率関税を課しました。
1-3. 国際緊急経済権限法(IEEPA, International Emergency Economic Powers Act)
IEEPA(50 U.S.C. §§ 1701–1707)は、アメリカが「国家的緊急事態」を宣言した場合に、大統領が経済制裁や貿易制限を行う権限を与える法律です。
この法律は関税ではなく制裁措置の法的根拠として用いられ、例えばTikTokやWeChatなどの中国企業に対する制限措置の根拠となりました。
2. トランプ関税の法的・国際的論点
- WTO(世界貿易機関)協定との整合性が問われ、加盟国から複数の提訴がなされました。
- アメリカ国内では、関税措置が議会権限を侵害しているとして、合憲性を争点とした訴訟が提起されました。
- 特に中国関税(Section 301)については、連邦裁判所で手続違反や過剰措置を理由とした企業側からの訴訟が継続中です。
3. 今後の展望:大統領権限の見直し
トランプ関税の広範な運用により、連邦議会では大統領に委任されている通商措置権限の範囲を見直す議論が進められています。特に、国家安全保障や緊急事態を口実にした大統領の一方的な関税措置を制限するための法改正案が提出されており、今後の政治的・法的動向が注目されます。
まとめ
トランプ大統領が実施した一連の追加関税は、すべて明文の連邦法に基づいた大統領権限によるものでした。しかし、関税発動の合理性や手続の透明性については批判も多いです。
※本記事は情報提供のみを目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。詳細なご相談については、専門の弁護士に直接ご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和