~カリフォルニア州の裁判で問題になる「法廷選び」~
みなさん、「フォーラムショッピング(forum shopping)」という言葉を聞いたことがありますか?
「ショッピング」といっても、洋服や日用品を買う話ではありません。これは裁判に関する専門用語で、特にカリフォルニア州の訴訟実務においても重要な問題となることがあります。
フォーラムショッピングとは?
フォーラムショッピングとは、裁判を起こす場所(裁判地=フォーラム)を、原告が自分にとって最も有利になるように選ぶ行為のことを指します。たとえば、損害賠償額が高額に認定されやすい州、陪審員の傾向が味方しやすい地域、または訴訟費用が安く済む裁判所などを意図的に選ぶケースがあります。
言い換えれば、「法律や裁判所の性質を“買う”ように、法廷を選ぶ」ことから「ショッピング」という表現が使われています。
どのようなときに問題になる?
たとえば、実際に契約や事件が起きたのがA州であるにもかかわらず、原告が有利な判例があるB州で訴えを提起した場合、「フォーラムショッピング」が疑われます。カリフォルニア州でも、こうした裁判管轄(jurisdiction)や適用法(choice of law)の選択をめぐって、裁判所が慎重に審査を行うことがあります。
フォーラムショッピングの例(実務でよくある場面)
- 製品事故が発生したのはネバダ州だが、原告がカリフォルニア州で訴訟を提起する
- 契約書には「テキサス州の法律を適用」と書かれているが、訴訟はカリフォルニアで行われる
- 離婚や親権の裁判で、居住実態のない州に形式的に居住して訴訟を起こす
このような場合、被告側は「不適切なフォーラム(improper forum)」であると主張し、訴訟地の変更(移送)や却下を求めることができます。
フォーラムショッピングを制限・禁止する法と判例
1. フォーラム・ノン・コンビニエンスの原則(Forum Non Conveniens)
カリフォルニア州では、Code of Civil Procedure §410.30 により、他により適切な裁判地がある場合、裁判所は訴訟を却下または移送できます。これはまさに、不当なフォーラムショッピングを防ぐための規定です。
2. 重要な判例:Stangvik v. Shiley Inc. (1991) 54 Cal.3d 744
この判例では、スウェーデン在住の原告がカリフォルニア州で製造された医療機器について訴訟を提起しましたが、カリフォルニア州最高裁は「スウェーデンでの審理が適切」として却下しました。
→ 原告に有利なフォーラムを選んだことは、裁判の公正性を損なうおそれがあると判示。
カリフォルニアで訴訟を起こす前に注意すべきこと
カリフォルニア州で訴訟を検討する場合は、以下の点を確認してください:
- 事件とカリフォルニア州との実質的な関連性があるか
- 当事者の居住地や所在地がどこか
- 契約書に専属的管轄(exclusive jurisdiction)や準拠法(governing law)の条項があるか
- 被告側にとって著しく不公平にならないか
不適切なフォーラム選択は、裁判の初期段階で訴訟却下という形で終わるリスクもあります。
まとめ
「フォーラムショッピング」は単なる戦略的な選択に見えるかもしれませんが、法的には強く制限されており、裁判所の信頼性や公平性を損なうおそれのある行為です。カリフォルニア州での訴訟を検討されている方は、事前に十分な法的アドバイスを受けることをお勧めします。
※本記事は一般的な法的情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法的助言を行うものではありません。個別の案件については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和