アメリカの刑事ドラマでおなじみの「あなたには黙秘権があります…」というセリフ。これは「ミランダ警告(Miranda Warning)」と呼ばれ、警察官が容疑者を取り調べる前に伝えるべき法的告知です。このミランダ警告を巡っては、実際の裁判でも様々な争点となることがあり、時には驚くような判決が下されることもあります。
今回は、カリフォルニア州の興味深い裁判例「People v. Aguilera (1996) 51 Cal.App.4th 1151」をご紹介します。
ミランダ警告とは?
1966年の連邦最高裁判所の判例 Miranda v. Arizona によって、警察が取り調べの前に容疑者に対し、以下の権利を告知することが義務づけられました:
- 黙秘権があること
- 発言が法廷で証拠として使われる可能性があること
- 弁護士を呼ぶ権利があること
- 弁護士が費用的に雇えない場合は、公選弁護人がつくこと
これらの告知がなければ、被告の自白などの供述は証拠として使えない可能性があります。
興味深いカリフォルニア州の判例:People v. Aguilera(1996年)
この事件では、被告アギレラ氏が警察の取り調べ中に「I think I need a lawyer(弁護士が必要かも)」と発言しました。しかし警察官は取り調べを続け、その後、アギレラ氏は犯罪への関与を認めました。
この供述を証拠として使えるかが争点となりました。
裁判所の判断:
カリフォルニア控訴裁判所は、「I think I need a lawyer」という発言は あいまいな意思表示 に過ぎず、明確な弁護士要請とは言えないと判断。結果として、その後の自白は証拠として認められました。
I thinkと付けていますが、I need a lawyerと言っているのですから、あいまいな意思表示ではないようにも思えますが、英語ネイティブの感覚からすると、明確に意思表示していない、ということになるようです。
英語で、I think ……というと、明確な意思表示ではない、と受け取られるリスクがあるのですね。日本語で「私は、〇〇と思います。」というと、きちんと意思表示しているように感じますが、難しいですね。
この判例のポイント
この事件は、ミランダ権の行使には明確さが必要であることを示しています。
たとえば:
- 「I want a lawyer(弁護士を呼んでほしい)」→ 明確であり、取り調べは中止すべき
- 「Do you think I need a lawyer?(弁護士って必要かな?)」→ あいまいであり、取り調べ継続も許容される可能性あり
警察官に対して、あいまいな発言ではミランダ権を行使したことにならないという点が、被疑者側にとっては非常に重要です。
日本人の場合の注意点
日本人など、英語が母語でない方がアメリカで取り調べを受ける場合、ミランダ権を明確に行使するためには相当な英語力が必要です。
自分の意思を正確に伝えられなければ、本来行使できたはずの権利が機能しないリスクもあります。
そのため、必ず日本語の通訳を付けてもらいましょう。
取調べを受ける段階で、「日本語の通訳をお願いします」と明確に伝えれば、通訳を付けてもらう権利があります。
アドバイス
もし警察から取り調べを受ける立場になったら、ミランダ警告がなされるかを確認し、黙秘権を行使するか否かを慎重に判断しましょう。そして、少しでも不安がある場合は、「弁護士を呼んでください」とはっきり伝えることが大切です。
また、必ず通訳を要求し、日本語で受け答えをするようにしましょう。
免責事項
本記事は一般的な法的情報の提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な案件については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和