「家の権利書(Title/Deed)を見たら、夫の名前しか載っていませんでした。離婚したらこの家はすべて夫のものになってしまうのでしょうか?」
私の法律事務所には、このような不安を抱えた方からの相談が頻繁に寄せられます。特に、結婚後に購入した不動産であっても、ローンの都合や手続きの簡略化のために、どちらか一方の名義にすることは珍しくありません。
結論から申し上げますと、名義が夫だけであっても、あなたがその財産権を失うわけではありません。
今回は、カリフォルニア州独自のルールである「コミュニティ・プロパティ(夫婦共有財産)」の観点から、不動産の所有権と売却時のお金の分け方について解説します。
1. カリフォルニア州の大原則:コミュニティ・プロパティ
カリフォルニア州は、Community Property State(夫婦共有財産制をとる州)です。
これは非常に強力なルールで、基本的には以下のように定義されます。
婚姻期間中に、労働の対価として得た収入や、その収入で購入した資産は、名義にかかわらず夫婦それぞれが50%ずつの権利を持つ。
つまり、家の権利書(Title)に「Husband (Sole Owner)」と書かれていようが、その家を買うための頭金や毎月のローン返済が「結婚後の給与(=夫婦共有の資金)」から支払われている限り、その家は夫婦二人のものと見なされます。
「名義」よりも「資金の出所」
裁判所が最も重視するのは「誰の名前が書いてあるか」ではなく、「いつ、どのお金で買ったか」です。
- 購入時期: 結婚してから別居するまでの間か?
- 資金源: 夫婦の共有口座や、結婚後の給与から支払われたか?
これらがYESであれば、妻の記載がなくても、あなたにはその家の50%の権利(持分)があります。
2. 家を売却した場合、お金はどう分けるのか?
では、婚姻期間中にその家を売却し、現金化(Liquidation)することになった場合、その売却益(Proceeds)はどうなるのでしょうか。
基本的には、以下のステップで計算されます。
- 売却額の確定: 家がいくらで売れたか。
- 経費の精算: ローンの残債、エスクロー費用、仲介手数料などを差し引く。
- 純利益(Net Proceeds)の分配: 残った現金を50/50で折半します。
たとえ夫が「俺の給料でローンを払っていたんだから、俺の金だ」と主張しても、法律上、結婚中の夫の給料は「妻のものでもある」ため、その主張は通りません。
注意が必要な「例外」ケース
ただし、単純な50/50にならないケースもあります。代表的なのが以下の2点です。
A. 独身時代の貯金を頭金に使った場合(別産による貢献)
もし夫が「結婚前の貯金」や「親からの遺産」を使って頭金(Down payment)を入れていた場合、カリフォルニア州法(Family Code §2640)に基づき、夫はその頭金分を優先的に返金(Reimbursement)してもらえる権利があります。
その返金分を差し引いた残りの利益を、夫婦で折半することになります。
B. クイットクレーム・ディード(Quitclaim Deed)にサインした場合
家の購入時に、妻側が「Quitclaim Deed(権利放棄証書)」や「Interspousal Transfer Deed」といった書類にサインをしている場合、少し話が複雑になります。
これは「この家は夫の単独財産(Separate Property)であることを認めます」という書類です。
しかし、「意味もわからずサインさせられた」「脅されてサインした」という場合(Undue Influence)は、その放棄が無効とされるケースも多々あります。夫婦間には「Fiduciary Duty(信義誠実の義務)」があるため、夫が妻に不利な取引をさせることは厳しく制限されているからです。
まとめ
カリフォルニア州において、不動産の名義が夫単独であっても、諦める必要は全くありません。
- 結婚後に買った家は、原則としてコミュニティ・プロパティです。
- 売却した利益は、基本的に50/50で分ける権利があります。
- 「権利放棄のサイン」をしてしまっていても、覆せる可能性があります。
不動産は離婚時の財産分与において最も大きな資産となることが多いため、不利な条件で合意する前に、必ず専門家の判断を仰ぐことを強くお勧めします。
免責事項 (Disclaimer)
本記事の内容は一般的な情報の提供を目的としており、法的助言(リーガル・アドバイス)ではありません。個別の案件や具体的な状況によって適用される法律や結果は異なります。ご自身の状況に基づいた法的な助言が必要な場合は、必ずカリフォルニア州の弁護士にご相談ください。本記事の閲覧によって、弁護士と依頼人の関係(Attorney-Client Relationship)が生じることはありません。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
