ビジネス契約書を精査していると、「Subsidiary(子会社)」や「Affiliate(関係会社)」という用語が頻繁に登場します。どちらも企業グループ内の会社を指す表現ですが、法的には明確な違いがあり、契約上の影響も大きいため、正確な理解が不可欠です。この記事では、カリフォルニア州の法律実務に基づいて、これらの用語の定義と契約書での位置づけについて解説します。
1. 「Subsidiary(子会社)」とは?
「Subsidiary」は、日本語では「子会社」に相当します。通常、ある会社(親会社)が、他の会社の議決権株式の過半数を直接的または間接的に保有している場合に、「子会社」とされます。つまり、親会社が経営上の実質的な支配権を持っている会社です。
契約例:「‘Subsidiary’ means any entity that is directly or indirectly controlled by a party through ownership of more than 50% of the voting securities of such entity.」
この定義が入ることで、契約上の義務や権利の適用範囲が親会社とその支配下の会社にも広がることになります。
2. 「Affiliate(関係会社)」とは?
一方、「Affiliate」はより広義の概念で、必ずしも支配関係がなくても一定の関係性(所有、支配、共通支配など)があれば該当する可能性があります。
典型的な定義:
「‘Affiliate’ means, with respect to any entity, any other entity that directly or indirectly controls, is controlled by, or is under common control with such entity. ‘Control’ means the possession of the power to direct the management and policies of such entity, whether through ownership of voting securities, contract or otherwise.」
このように、「Affiliate」には、親会社、子会社、兄弟会社、持株会社など、共通の支配を受ける全ての法人が含まれる可能性があります。契約書では、ライセンスの使用対象や秘密保持の範囲、競業避止義務などでこの語が使われることが多く、適用範囲が大きく変わるため注意が必要です。
3. 契約書での実務的影響
「Subsidiary」と「Affiliate」の使い分けは、契約義務の範囲や第三者への適用可能性に大きく影響します。
- 「Affiliate」まで含めると、想定以上に広範な会社が契約義務を負う可能性がある
- 「Subsidiary」に限定すれば、義務や制約の範囲を狭くできる
- 米国法では、契約での定義が優先されるため、契約書冒頭の定義条項(Definitionsセクション)に注目することが重要
4. カリフォルニア州法の視点
カリフォルニア州では、契約解釈の基本ルールとして「契約文言の明確性」が重視されており、定義条項に含まれる「Affiliate」や「Subsidiary」の内容が、そのまま契約解釈の根拠になります。従って、意図しない範囲への適用を避けるためにも、定義文を細かく検討する必要があります。
5. まとめ:実務上のチェックポイント
- 「Affiliate」や「Subsidiary」の定義は契約ごとに異なるため、毎回読み直す
- 「Affiliate」を広く定義しすぎると、親会社の他の事業部門まで契約拘束を受けるリスクがある
- 契約交渉の段階で、どこまでの範囲を対象とするか当事者間で合意しておく
契約の内容が複雑化する現代において、「Subsidiary」と「Affiliate」の違いを正しく理解し、契約書において的確に定義することは、リスク管理の第一歩です。企業の法務担当者やカリフォルニア州での取引を行う日系企業にとって、これは見逃せないポイントと言えるでしょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。具体的な契約書の検討については、カリフォルニア州の弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和