結婚を控えたカップルにとって、財産や債務の取り決めを明確にしておくことは、将来のトラブルを防ぐために重要です。こうした取り決めを法的に文書化したものが「婚前契約(Prenuptial Agreement)」です。
婚前契約とは?
婚前契約(Prenuptial Agreement)とは、結婚前に夫婦が財産の管理や分与、配偶者の扶養義務などについて取り決める契約です。たとえば次のような内容が盛り込まれます:
- 結婚前から所有している財産の扱い
- 結婚中に取得した財産の分配方法
- 離婚時の財産分与や慰謝料に関する合意
- 相続や死別に備えた規定
このような契約は、カリフォルニア州でも法的に有効であり、適切な手続を経れば強制力があります。
婚前契約には「7日間ルール」がある
カリフォルニア州では、婚前契約を締結する際、契約案を提示してから署名前に少なくとも7日間の熟慮期間を設けることが法律で義務付けられています(Family Code §1615(c)(2))。この期間を置かずに署名した婚前契約は、将来的に無効とされる可能性があります。
そのため、結婚直前にあわてて婚前契約を作成しようとすると、この「7日間ルール」に間に合わず、法的効力のある契約を締結できないケースがあります。
婚前契約が間に合わない場合はどうする?
結婚式が差し迫っているなどの理由で婚前契約が間に合わない場合でも、結婚後に「婚後契約(Postnuptial Agreement)」を締結することで、同様の取り決めを行うことが可能です。
婚後契約(Postnuptial Agreement)とは?
婚後契約とは、結婚した後に夫婦間で締結する契約で、内容としては婚前契約とほぼ同じ範囲を取り決めることができます。たとえば:
- 結婚後に取得した財産の管理方法
- 今後の収入や投資に関する取り決め
- 離婚時の対応(財産分与、扶養)
- 死別時の財産の承継先
ただし、婚後契約は婚前契約よりも慎重に審査される傾向があります。特に、契約が自発的に締結されたものであること、両者が完全な情報を開示していること(full disclosure)、そして一方に著しく不利でないことが重要視されます。
ケーススタディ:結婚直前で婚前契約が間に合わなかった事例
事例:Sさん(女性・IT企業勤務)とMさん(男性・医師)は、結婚式の3週間前に財産分与に関する婚前契約の必要性を認識しました。
しかし、弁護士との協議・文案の作成に時間がかかり、契約案が完成したのは式の6日前。カリフォルニア州の法律では「署名前に少なくとも7日間置くこと」が必要なため、この段階では婚前契約は締結できませんでした。
解決策として:
結婚式後、速やかに弁護士を通じて**婚後契約(Postnuptial Agreement)**を締結し、婚前に意図していた内容を反映させました。両当事者はそれぞれ独立した弁護士の助言を受け、契約内容の公平性と自発性が確認されたことで、法的に有効な契約が成立しました。
このように、婚前契約が間に合わなくても、婚後契約という選択肢があることを知っておくことは非常に重要です。
弁護士による確認が不可欠
婚前契約も婚後契約も、両当事者が独立した法律顧問を持つことが推奨されています。契約内容が一方にとって極端に不利であったり、自発的でないとみなされた場合は、将来的に無効とされるリスクがあります。
契約の有効性を確保するためにも、必ず経験ある家族法弁護士に相談のうえで作成・締結することが重要です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。ご自身の具体的な状況については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和