田中良和国際法律事務所

州外・国外から複数のEメールを送っただけでは、カリフォルニア裁判所に管轄は成立しない?

インターネットや電子メールの普及により、州や国境を越えたコミュニケーションは日常の一部となりました。では、カリフォルニア州に居住する人物(以下「Bさん」)が、州外または国外に住む人物(以下「Aさん」)から複数のEメールを受け取った場合、Bさんはその内容を理由に、カリフォルニアの裁判所で法的手続きをとることができるのでしょうか?

結論:Eメール送信だけでは原則として人的管轄は成立しない

原則として、州外または国外に居住する人物が、カリフォルニア州に住む相手に対して複数のEメールを送ったという事実だけでは、カリフォルニアの裁判所がその送信者に対する個人的管轄権(personal jurisdiction)を有するとは限りません

なぜなら、一方的な電子的通信は、カリフォルニア州との「十分な接点(minimum contacts)」を構成しない場合が多いためです。

カリフォルニア州の裁判所が、他州または外国に住む個人に対して管轄権を行使するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります(Pavlovich v. Superior Court, 29 Cal.4th 262 (2002)):

  1. 目的的関与(Purposeful Availment / Direction):Aさんが意図的にカリフォルニア州に対して行動を起こしたこと
  2. 訴訟原因との関連性(Arising out of Forum-Related Conduct):Bさんの申し立てが、Aさんの行動に直接関連していること
  3. 衡平性(Fair Play and Substantial Justice):カリフォルニアで訴えることが合理的かつ公平であること

このうち、特に問題となるのが1番目の「目的的関与」です。ただEメールを送信しただけでは、それがカリフォルニア州との意図的な関与と評価されにくく、個人的管轄の成立は困難とされるのが通常です。

連邦および州の判例では、受動的(passive)な接触、つまり一方的な通信行為のみでは個人的管轄の成立に不十分であるとされています。例えば、Schwarzenegger v. Fred Martin Motor Co., 374 F.3d 797 (9th Cir. 2004)では、「相手がフォーラム州(ここではカリフォルニア)を狙って行動した」ことが必要とされ、単なる広告や通信では不十分とされました。

このため、AさんがBさんに複数のメールを送っていたとしても、それだけでカリフォルニアに対して目的的に行動していたとまでは評価されない可能性が高いと考えられます。

もっとも、次のような事情がある場合には、裁判所が個別に目的的関与を認める可能性もあります:

  • メールの内容が明確にカリフォルニアでの契約、業務、法的権利などを対象としている
  • Aさんが過去にカリフォルニア州に関連する業務・関係・法的義務を有していた
  • 通信が単なる受動的連絡を超えて、実質的にカリフォルニア州内での行為に相当する場合

ただし、これらはいずれも例外的なケースであり、通信回数の多さのみでは目的的関与とは見なされないのが原則です。

電子メールを理由に法的措置を検討する際は、次の点を重視する必要があります:

  • 送信されたメールの内容がカリフォルニア州とどのように関連するか
  • 送信者がカリフォルニア州に対してどの程度の意図や予見可能性を持って行動したか
  • 受信者が被った影響が訴訟原因として成立する程度のものか

これらを総合的に検討した上で、個人的管轄の成立可能性を評価する必要があります。

カリフォルニア州に住む人が、州外や国外の人物から複数のEメールを受信していたとしても、その事実のみをもって直ちにカリフォルニアの裁判所が管轄権を有するとは言えません。特に、送信者が州に対して明確な関与や影響を及ぼす意図を有していなかった場合、目的的関与は否定され、人的管轄は成立しない可能性が高くなります。

このような法的判断は、通信の内容や関係性、送信者の行動全体に基づいて慎重に行われます。具体的な状況に応じた法的助言を得ることが重要です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。


カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和

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