田中良和国際法律事務所

相次ぐ閉店と「万引き天国」の終わり?Prop 36施行で変わる現場のルール

ここ数年、カリフォルニアの街角では、見慣れた有名店やドラッグストアが次々とシャッターを下ろす光景を目にするようになりました。

「万引き被害が甚大であるにもかかわらず、警察が十分に対応してくれない」

これが、多くの店舗が閉店や他州への撤退を決断した大きな理由の一つと言われています。そして残念なことに、一度閉まった店舗の多くは、今もなお再開されていません。

こうした「小売業界の危機」とも言える状況を打開するため、2024年11月の選挙で可決されたのが**Proposition 36(Prop 36)**です。今回は、この新法が施行されることで、現場のルールがどう変わるのかを解説します。

多くの店舗が撤退を余儀なくされた背景には、2014年のProp 47による影響が指摘されています。

この法律により、盗難被害額が950ドル以下の場合、原則として「軽罪(Misdemeanor)」として扱われることになりました。その結果、現場では「捕まってもすぐに釈放される」「通報しても警察が動かない」という状況が常態化し、犯罪への抑止力が著しく低下してしまいました。

利益を圧迫するほどの盗難ロスと、従業員の安全確保が困難になったことが、多くの有名店を閉店へと追い込んだ要因の一つです。

Prop 36は、この流れを法的に断ち切るために可決されました。もっとも大きな変更点は、**「被害額が少額でも、常習犯なら重罪になり得る」**という点です。

具体的には、過去に2回以上の窃盗(万引き、強盗など)の有罪判決を受けている人物が、新たに窃盗を行った場合、その被害額が950ドル以下であっても、検察官はこれを「重罪(Felony)」として起訴できるようになりました。 これにより、最大で3年の郡刑務所への収監が可能となります。

つまり、「少額なら捕まらない」と犯行を繰り返していた常習犯(リピーター)に対し、ようやく法的な歯止めがかかることになります。

すでに閉店してしまった店舗も多い中、現在営業を続けている、あるいは今後再開を検討しているオーナー様にとって、オペレーションの変更が必要になります。

これまでは「通報しても無駄」という諦めがあったかもしれませんが、Prop 36の下では**「警察への通報・記録」**が極めて重要な意味を持ちます。

  • 「3回目」の適用条件: 犯人を重罪として起訴するためには、過去の犯行が記録され、有罪判決が出ている(=前科がある)ことが条件になります。
  • 警察対応の変化: 法的根拠が強化されたことで、警察や検察も以前より動きやすくなることが期待されます。

Prop 36が施行されたからといって、失われた店舗がすぐに戻ってくるわけではありません。しかし、法制度は明らかに「行き過ぎた寛容」から「規律の回復」へと舵を切りました。

今後、カリフォルニアでビジネスを守っていくためには、万引き被害に遭った際、諦めずに警察へレポートを提出し、法の運用を促していく姿勢が不可欠となります。


※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の案件については専門家にご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

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