カリフォルニア州では、従業員や契約者に対する競業避止義務(Non-Compete Clause)の取り扱いが、全米の中でも特に厳しく制限されています。その法的根拠となるのが、Business and Professions Code §16600です。本記事では、当該条文の概要と、2023~2024年にかけての重要な立法・判例・実務指針の変化を解説します。
1. California Business and Professions Code §16600とは
“Except as provided in this chapter, every contract by which anyone is restrained from engaging in a lawful profession, trade, or business of any kind is to that extent void.” — Cal. Bus. & Prof. Code §16600
つまり、雇用契約や業務委託契約などで、退職・契約終了後に一定期間特定の業種・地域で働くことを禁じる条項は、原則として無効となります。
2. 例外:M&A・パートナーシップ・トレードシークレット
- 会社の売却や持分譲渡に伴う合理的な制限
- パートナーシップやLLC契約に基づく制限
- 営業秘密(Trade Secret)保護に限定した制限
3. 最新動向:SB 699とAB 1076の成立(2024年1月施行)
- SB 699:州外のNon-Compete契約のカリフォルニアでの無効化と民事救済権を明確化
- AB 1076:既存の競業条項がある場合、従業員への書面通知義務を規定(2024年2月14日まで)
4. 実務対応:契約・通知・クロスボーダー雇用
- 雇用契約や委託契約書の精査
- 違法な競業制限がある従業員への通知対応
- カリフォルニア州法準拠条項やChoice of Lawの見直し
5. 判例にも注意:Edwards v. Arthur Andersen LLP (2008)
「雇用後の競業制限は、それがいかに狭い範囲であっても、原則として無効である」 — Edwards v. Arthur Andersen LLP, 44 Cal.4th 937 (2008)
6. まとめ:契約戦略の見直しが急務
カリフォルニアでは、競業避止義務は厳しく制限されており、形式的に契約に含まれていても無効となる場合が大多数です。特に、カリフォルニア州で雇用関係を結ぶ場合は、他州・他国の常識が通用しない点に注意が必要です。
7. 【比較】日本法との違い:カリフォルニアとのギャップに要注意
日本法においては、競業避止義務は有効となる場合がある点が、カリフォルニアとの大きな違いです。
項目 | カリフォルニア州法 | 日本法 |
---|---|---|
競業避止義務の原則 | 原則無効(§16600) | 原則有効だが、 制限が必要(期間・地域・職種など) |
適法要件 | 極めて限定的(M&A等) | 合理的範囲内であれば有効(最長で2年程度が目安) |
違反時の救済 | 契約自体が無効なため請求困難 | 損害賠償請求・差止請求が可能 |
適用される法 | 契約で他州法を選んでも原則無効(SB 699) | 当事者の合意・就労地・事業所所在地などにより判断 |
このように、日本国内では有効でも、カリフォルニア州では全く通用しないという点は、米国子会社や現地従業員との契約において致命的なリスクとなり得ます。日本企業がカリフォルニアで従業員を雇用する際には、雇用契約テンプレートの見直しが法的義務に近い重要性を持ちます。
本記事は情報提供を目的としており、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な契約書の作成や見直しについては、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和