田中良和国際法律事務所

解雇前にPIP(パフォーマンス改善計画)を導入する理由とは?

**PIP(Performance Improvement Plan/パフォーマンス改善計画)**とは、従業員の業務パフォーマンスが期待に達していない場合に、その改善を目的として導入される制度です。通常、PIPには以下の要素が含まれます:

  • 改善が求められる具体的な業務内容
  • 達成すべき目標や基準
  • 改善のための期限(通常30~90日)
  • 必要な支援やフィードバックの提供
  • 改善が見られなかった場合の結果(例:解雇の可能性)

PIPは単なる注意ではなく、雇用契約の継続を左右する重大な手続です。


カリフォルニア州は**”at-will employment”(随意雇用)**の原則を採用しており、雇用主は正当な理由がなくとも従業員を解雇することができます。ただし、次のようなリスクがあるため、PIPを経由してから解雇することが推奨されます

1. 不当解雇訴訟を回避するエビデンスとなる

PIPを通じて従業員の業務改善の機会を与えた記録があると、「差別的」「報復的」な解雇ではないという証拠になり、不当解雇の主張を防ぐ助けとなります。

2. 従業員との対話と透明性の確保

PIPは従業員に明確な期待値と具体的な改善策を提示する機会であり、「突然の解雇」といった印象を与えず、感情的なトラブルも回避しやすくなります。

3. 実際に業務改善があれば解雇回避も可能に

PIPを通じて改善が確認されれば、雇用関係を継続する判断も可能となり、採用コストの削減や社内の士気維持にもつながります。


● 文書化を徹底する

PIPの内容、フィードバック、進捗確認など、すべてのやり取りは書面で記録しておきましょう。後日、訴訟になった場合に備えるためです。

● 差別・ハラスメントと誤解されないように

PIPの対象者が特定の人種・性別・年齢・障害等を有している場合、差別の疑いを持たれないよう慎重に対応しましょう。

● 実施期間は合理的に設定する

業務の内容によっては、改善に30日では不十分な場合があります。業務内容と期待される改善レベルに応じた期間設定が求められます。


PIPは、従業員を排除するための手続きではなく、業務改善の最後のチャンスを与えるプロセスです。同時に、解雇を正当化するための合理的・法的根拠を準備する手段でもあります。

解雇を検討している企業は、弁護士に相談の上、適切なPIPの導入・運用を行うことが極めて重要です。


※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の事案についての法律アドバイスではありません。個別の法的判断については、カリフォルニア州弁護士に直接ご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

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