刑事手続きの重要な要素である「逮捕」「勾留」「保釈」について、日本とカリフォルニア州(米国)の制度を比較しながら解説します。
逮捕とは
逮捕とは、犯罪の嫌疑がある人物の身体の自由を一時的に制限し、捜査機関の管理下に置く法的手続きです。
カリフォルニア州での逮捕
- 逮捕状による逮捕(warrant arrest)と現行犯逮捕(warrantless arrest)があります。
- 警察官が「相当な理由(probable cause)」を有していると判断すれば、裁判官の逮捕状がなくても逮捕できます。
- 逮捕後、48時間以内(休日を除く)に裁判所に出廷させる必要があります(Gerstein hearing)。
日本での逮捕
- 通常逮捕(令状による)、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。
- 逮捕には、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」が必要です。
- 逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、さらに24時間以内に勾留請求または釈放が決定されます。
勾留とは
勾留は、被疑者・被告人を一定期間拘束する手続きで、逮捕後の継続的拘束に該当します。
カリフォルニア州での勾留
- 逮捕後、48時間以内に起訴されなければ釈放されます(休日を除く)。
- 起訴された場合、裁判所は保釈金額を設定します。
- 一部の重大犯罪では、保釈なしでの勾留(no bail detention)が認められます。
- 地域によっては、リスクアセスメント制度に基づいて保釈の可否が判断されます(SB10法の影響)。
日本での勾留
- 検察官の勾留請求に基づき、裁判官が勾留状を発行します。
- 初回勾留期間は10日間、さらに最大10日間の延長が可能です(最大20日間)。
- 要件は「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と「住所不定」「証拠隠滅や逃亡のおそれ」。
日本では勾留期間中に自白を得ようとする傾向があり、長期にわたる身体拘束が取調べ手段として利用されることから、国際的にはこの制度が「人質司法(Hostage Justice)」と批判されることがあります。被疑者が黙秘や否認を続けると保釈や勾留延長がされやすくなる構造が問題視されています。
保釈とは
保釈とは、勾留中の被告人について、金銭的担保などを条件として裁判所の許可により一時的に釈放する制度です。
カリフォルニア州での保釈
- 逮捕直後から保釈申請が可能です。
- 州ごとの保釈金額表(bail schedule)に基づいて金額が設定されます。
- 保釈保証業者(bail bondsman)を利用することで、通常10%の保証料で保釈が可能です。
- 軽微な犯罪では、自己誓約による釈放(Own Recognizance, OR)も可能です。
- 2021年以降、リスク評価(Public Safety Assessment)による判断が導入されています。
日本での保釈
- 起訴後に初めて保釈が請求可能です。
- 裁判所が保釈を許可した場合、保釈金の納付が必要です。
- 証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断されると、保釈は認められません。
- 日本の保釈許可率は約30%前後で、国際的に低い傾向です。
逮捕後の保釈可能性:日本とカリフォルニアの比較
日本の場合
- 逮捕直後の保釈制度は実質的に存在しません。
- 起訴前の釈放は「勾留理由開示」「勾留取消」「勾留執行停止」などの手段があります。
- 通常、保釈は起訴後に初めて考慮されます。
- 重大犯罪や証拠隠滅・逃亡の恐れがあると、保釈は認められにくくなります。
このように起訴前から長期間にわたって拘束され、自白を強要されやすい環境が制度的に存在することも、「人質司法」と批判される理由です。
カリフォルニア州の場合
- 逮捕直後から保釈申請が可能です。
- 24時間対応の保釈制度が整備されています。
- 軽犯罪では、保釈金なしでの釈放(Own Recognizance, OR)が利用されます。
- 保釈保証制度により、金銭的負担が軽減される仕組みがあります。
- 重大犯罪や逃亡・危険性の高い事案では、保釈が認められないケースもあります。
まとめ
日本とカリフォルニア州の刑事手続きには共通点もありますが、特に保釈制度において大きな違いが見られます。カリフォルニア州では、逮捕直後から保釈の可能性があるなど、被疑者の身体的自由が早期に回復されやすい一方、日本では勾留の継続が優先され、起訴前の釈放が困難であるという制度的特徴があります。
また、日本の制度は被疑者の自白を前提とした運用が強く、国際人権団体などから「人質司法」として度々批判されています。これは、公正な刑事手続きの観点からも改善が求められる重要な課題です。
もし、逮捕や勾留、保釈に関する具体的な事案に直面している場合は、速やかに専門の弁護士へ相談されることを強く推奨します。
免責事項
本記事は一般的な法制度の解説を目的としており、個別の法律相談には該当しません。具体的な事案については、必ず資格を持つ弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和