田中良和国際法律事務所

錯誤(Mistake)とは?

契約において「錯誤(mistake)」という概念は、契約が有効に成立するための前提が欠けていた場合に、当事者がその契約を取り消す、または無効とする根拠になり得ます。しかし、錯誤がどのような場合に成立し、どのような効果をもたらすかについては、カリフォルニア州法(アメリカ法)と日本法とでは重要な違いがあります。

カリフォルニア州では、錯誤は契約無効(または取消)の根拠となる場合があります。大きく分けて以下の3つの類型があります:

  1. 事実に関する一方当事者の錯誤(Unilateral Mistake)
    一方当事者が契約の重要な事実について誤っていた場合でも、以下のような追加要件が必要です:
    • その錯誤が重大であること(material)
    • 他方当事者がその錯誤を知っていた、あるいは気づくべきだったこと
    • 契約を維持することが不公正であると認められること(unconscionable)
  2. 事実に関する双方の錯誤(Mutual Mistake)
    両当事者が同じ事実について誤解していた場合には、契約は取り消し可能となる場合があります。
    • その錯誤が契約の「基本的な前提」に関わるものであることが必要です。
      (例:契約対象物がすでに滅失していた場合など)
  3. 法的錯誤(Mistake of Law)
    通常、法律の理解不足による錯誤は無効主張の根拠にはなりませんが、特定の状況下では考慮されることがあります。

これらの主張は、カリフォルニア州民法典(California Civil Code)第1577条および第1689条に基づきます。

一方、日本民法では、錯誤は「意思表示の要素に錯誤があるときは、その意思表示は無効」とする規定があります(民法第95条)。日本法では以下のような構成がなされています:

  • 要素の錯誤:契約の目的や動機に関する重大な事実の誤認
  • 表意者に重大な過失がないこと:表意者(誤った意思表示をした者)に重大な過失がある場合は無効とならない

つまり、日本では「錯誤=原則無効」であるのに対し、カリフォルニア州では「錯誤=取消し可能性がある」という位置づけであり、より厳格な条件を満たす必要があります。


契約書の精査が重要

カリフォルニア州では、錯誤を理由に契約を無効または取り消すには、「契約の本質的な前提に関わる事実」である必要があり、また「その錯誤によって重大な不公正が生じること」を立証しなければなりません。

一方、日本では要素の錯誤があれば無効とされるため、錯誤の種類と過失の有無が重視されます。

国際契約の場合のリスク管理

日本企業がアメリカ、特にカリフォルニアの企業と契約を結ぶ場合には、「準拠法」がどちらにあるかによって、錯誤に基づく主張の成立要件が大きく異なることに留意すべきです。事前の法的レビューとリスク分析が不可欠です。

錯誤という概念は、契約の根幹に関わる問題であり、カリフォルニア州と日本ではその法的効果に重要な差があります。カリフォルニア州では、錯誤による契約の取消しは限定的に認められるものであり、特定の厳格な要件を満たす必要があります。

契約締結前には、契約内容だけでなく背景事情についても慎重に確認し、必要に応じて法的助言を受けることが、将来的な紛争の予防につながります。

免責事項:本記事は一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、特定の事案についての法的助言を構成するものではありません。個別のケースについては、カリフォルニア州弁護士にご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、サンフランシスコ)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

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