契約書は単なる形式的な書類ではなく、ビジネス関係の基盤となる重要な法的文書です。特にアメリカのビジネス環境では、契約書の各条項が将来的な紛争やリスクを大きく左右します。特に注意すべき重要条項について解説します。
補償条項(Indemnification)
補償条項は、契約当事者の一方が特定の損害や損失について責任を負うことを規定します。
- 補償の範囲(直接損害のみか、間接損害も含むか)を明確にすること
- 「第三者請求」に対する補償範囲を特定すること
- 防御義務(弁護費用の負担など)の有無を確認すること
実務上、この条項は「隠れた罠」となりがちです。たとえば、広範な補償義務を負うことで、相手方の過失による損害にまで責任を負うリスクがあります。補償条項を受け入れる際は、自社のリスク許容度や保険のカバー範囲を十分に考慮しましょう。
保証条項(Warranties)
保証条項は、提供する製品やサービスについての一定の品質や性能に関する約束を示します。
- 明示的保証と黙示的保証の違いを理解すること
- カリフォルニア州では、消費者保護法が厳格であり、黙示的保証の免責が認められない場合があります
保証条項を作成・レビューする際は、実際に履行可能な内容のみに限定することが重要です。過度の保証は、後の契約違反リスクを高めるおそれがあります。
表明および保証(Representation and Warranty)
「表明および保証」条項では、契約当事者が現在の事実に関して真実であることを表明し、それが将来にわたって正しいと保証するものです。M&A契約などでは特に重視されます。
- 表明は「現時点で真実である」との確認、保証は「継続的に真実であることを約束」する性質を持つ
- 虚偽または不正確な表明・保証があると、損害賠償や契約解除の根拠となる
- 開示スケジュール(Disclosure Schedule)を用いて例外事項を明記するのが一般的
表明および保証の内容は、相手方が契約を締結する判断に直接影響するため、正確かつ限定的に記載する必要があります。不実表示に関する訴訟リスクも考慮されます。
責任制限条項(Limitation of Liability)
この条項では、契約違反や過失が発生した場合における賠償責任の上限を定めます。
- 直接損害と間接損害(派生的・付随的損害)の区別
- 責任上限額の設定(契約金額の倍数や固定金額など)
- 故意・重過失など、特定の事由に関する例外の有無
カリフォルニア州法では、あまりにも一方的な責任制限条項は「良心に反する(unconscionable)」として無効とされる可能性があります。
準拠法および管轄(Governing Law and Jurisdiction)
どの州の法律を契約に適用し、紛争が生じた際にどこの裁判所で解決を図るかを定める条項です。
- 準拠法と管轄地は必ずしも一致させる必要はないが、一致していた方が裁判所が判断しやすいし、訴訟効率が良い
- カリフォルニア州法が適用される場合、特定の法律(たとえば労働法など)が強行法規として適用される可能性があります
- 国際取引では、準拠法を慎重に検討すること
特に州をまたぐ取引では、準拠法の選択が契約の解釈や執行に影響を及ぼします。
終了条項(Termination)
契約を終了させる条件や手続きを定める条項です。
- 契約違反による終了の条件(治癒期間の有無など)
- 便宜による終了(termination for convenience)の可否および通知期間
- 終了後も存続する条項(例:補償義務、機密保持義務など)の特定
特に長期契約では、予期せぬ事態に備えた適切な「出口戦略」を用意することが重要です。
まとめ
契約書の各条項は相互に関連しており、一つの条項の変更が他の条項に影響を与える場合があります。バランスの取れた契約書作成には、法的リスクの把握だけでなく、ビジネス上の関係性や交渉力の差も踏まえて検討することが必要です。
契約書を検討する際、とくにリスクが大きい取引では、経験豊富な弁護士に相談することを強くお勧めします。適切な法的アドバイスによって、将来的な紛争を予防し、貴社のビジネスをしっかり守ることができます。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和