田中良和国際法律事務所

アメリカの契約書における重要条項

契約書レビュー、甘く見ていませんか?——米国契約で見落としがちな「危険条項」の話

先日、あるクライアントから「契約書にサインしたら、相手の過失まで全部うちが補償することになっていた」という相談を受けました。

こういうケースは珍しくありません。英文契約書は長いし、法律用語も多い。つい流し読みして署名してしまう気持ちはわかります。でも、契約書というのは「何も起きないとき」ではなく「何か起きたとき」のためにある。そのときになって初めて、あの一文がこんな意味だったのかと気づくわけです。

今回は、私が実務で特に注意している条項をいくつかご紹介します。

この条項が一番怖い、と言っても過言ではありません。

補償条項は、要するに「何か問題が起きたら誰がその損害を被るか」を決めるものです。問題は、範囲が曖昧なまま署名してしまうケース。「第三者からの請求」「間接損害」「弁護士費用」——どこまでカバーするのか、きちんと読んでいますか?

私が過去に見た契約書では、相手方の製品欠陥による訴訟費用まで、こちらが負担する内容になっていたことがあります。相手の過失なのに、です。保険でカバーできる範囲かどうかも含めて、必ず確認してください。

営業の現場では「できます」と言いたくなる場面が多いでしょう。でも、契約書に書かれた保証は法的拘束力を持ちます。

カリフォルニア州では消費者保護法が厳しく、黙示的保証(implied warranty)を免責できない場合があります。「as is」と書いておけば大丈夫、というわけにはいかないのです。

保証条項を書くときは、実際に履行できる内容だけに限定すること。過剰な約束は、後で自分の首を絞めます。

会社の売買や投資案件でよく出てくるのがこの条項です。「当社には未払いの税金はありません」「訴訟は係属していません」——こうした表明が虚偽だった場合、損害賠償はもちろん、契約解除の根拠にもなります。

実務では、Disclosure Schedule(開示別紙)を使って例外事項を明記するのが一般的です。「訴訟はない」と言い切るのではなく、「別紙記載のものを除き、訴訟はない」とする。この一手間が、後のトラブルを防ぎます。

万一の契約違反があったとき、賠償額に上限を設けるかどうか。これは交渉の要です。

よく見るのは「契約金額の2倍まで」といった定め方ですが、間接損害(consequential damages)を含むかどうかで意味が全く変わってきます。また、カリフォルニア州では、あまりに一方的な責任制限は「unconscionable」(良心に反する)として無効になる可能性もあります。

自社に有利にしすぎると、いざというとき使えない条項になってしまう。バランスが大事です。

紛争が起きたとき、どの州の法律を適用し、どこの裁判所で争うのか。これを決めるのがこの条項です。

カリフォルニア州法を選んだ場合、労働法など一部の強行法規は当事者の合意に関係なく適用されます。また、国際取引では、相手国の裁判所で争うことになるリスクも考慮が必要です。

私の経験上、準拠法と管轄地は一致させておいた方がいい。裁判所も判断しやすいし、実務上の効率も上がります。

長期契約で見落としがちなのが、この条項です。

「相手が契約違反したら解除できる」とあっても、30日間の治癒期間(cure period)が設けられていれば、その間は解除できません。また、termination for convenience(便宜上の解除)が認められているかどうかも重要です。認められていないと、相手との関係が悪化しても契約終了まで縛られ続けます。

終了後も存続する義務(例えば機密保持や補償義務)が何かも確認してください。契約が終わっても、義務だけが残ることはよくあります。

契約書の条項は、単独で見ても意味がありません。補償条項と責任制限条項は連動しているし、表明保証と終了条項も絡み合っています。一つ変えれば、全体のバランスが崩れることもある。

だからこそ、リスクの大きい取引では、契約書を弁護士にレビューしてもらうことを強くお勧めします。費用はかかりますが、署名後に「こんなはずじゃなかった」となるよりは、はるかに安い投資です。

契約書は、ビジネスパートナーとの信頼関係を文書にしたもの。だからこそ、最初にきちんと向き合っておくことが大切だと、私は考えています。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和

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