米国、特にカリフォルニア州で事業を展開する日系企業にとって、現地の法律環境を正確に理解することは重要です。日本と米国の司法制度には本質的な違いがあり、これらの差異が米国で「訴訟社会」と称される背景となっています。
カリフォルニア州の制度を中心に、日本の法律システムとの主要な違いについて解説します。
米国の訴訟件数は本当に多いのか?
米国の訴訟件数は日本と比較して非常に多いです。たとえば、米国では年間約4,000万件近い訴訟(民事・刑事含む全体)が処理されており、民事訴訟だけでも数百万件にのぼります。
これに対して日本では、民事訴訟の新受件数は年間約80万件程度にとどまります。人口比を考慮しても、米国の方が訴訟の頻度が高いのは事実です。
カリフォルニア州の訴訟制度の特徴
1. 訴訟提起のハードルが低い
● 初期費用が比較的安価
カリフォルニア州では、訴額に応じた印紙税制度はなく、固定的な申立手数料(filing fee)が課されます。たとえば、カリフォルニア州では一般民事訴訟の提起には数万円程度の費用がかかりますが、日本のように訴額に応じて費用が大きく変動することはありません。
● 訴状に具体的な損害額の記載が不要
カリフォルニア州の訴訟では、損害賠償額を「未特定(unlimited civil case)」として提出することが可能であり、裁判の進行に応じて賠償請求額を調整できます。
2. 高額な損害賠償の可能性
米国では、懲罰的損害賠償(punitive damages)の制度が認められており、特に悪質な行為に対しては、実際の損害額を大きく超える賠償額が科される場合があります。これは原告側にとって大きなインセンティブとなります。
3. 成功報酬型の弁護士報酬体系
コンティンジェンシー・フィー(contingency fee)といって、弁護士報酬は「勝訴時にのみ、得られた賠償金から一定割合(30〜40%)を支払う」形式で受任することがあります。この仕組みによって、資力の乏しい個人や中小企業でも訴訟を提起しやすくなっています。勝訴時に得られる損害賠償額が高額なため、弁護士も成功報酬形式で受任しやすい状況です。日本では、弁護士に着手金を支払うケースがほとんどですので、もし訴訟に負けても、着手金は戻ってきません。訴訟を提起するハードルは日本の方が高いです。
4. ディスカバリー制度
ディスカバリー(証拠開示)制度は、米国の訴訟制度の中でも特徴的な制度のひとつです。訴訟当事者は以下の手段で相手方から証拠の開示を求めることができます:
- 文書開示請求(Document Production)
- 宣誓供述(Deposition)
- 書面質問(Interrogatories)
- 要求照会(Requests for Admission)
これにより、原告側が事前に十分な証拠を持っていなくても、訴訟を通じて必要な情報を得ることが可能です。
日本の訴訟制度との主な違い
1. 証拠収集が困難
日本では、当事者が自ら証拠を収集・提出する必要があり、強制的な開示制度は存在しません。裁判所による文書提出命令はありますが、米国のような広範な開示は認められていません。
2. 損害賠償の抑制的運用
日本には懲罰的損害賠償の制度が存在せず、損害賠償額は原則として実際の損害に限定されます。そのため、高額訴訟になりにくい傾向があります。
3. 訴訟コストと弁護士費用の構造
日本では、訴訟提起時に訴額に応じた印紙税(数万円〜数十万円)を納める必要があり、弁護士費用も基本的に自己負担です(敗訴しても原則として相手方の費用を負担する義務はありません)。
注意すべきポイント
- 訴訟リスクの認識:訴訟の発生頻度が高い米国では、事前にリスク分析と法務対応策を準備しておくことが不可欠です。
- 文書管理の徹底:ディスカバリー制度を前提に、社内文書・メール等の管理ルールを整備しましょう。
- 適切な保険への加入:商業損害保険(CGL保険)など、訴訟費用を補償する保険を検討することが重要です。
- 現地専門家との連携:米国の訴訟実務に精通した弁護士との連携体制を構築することが推奨されます。
まとめ
米国の訴訟制度は、日本とは異なり、訴訟提起の容易さ、高額な損害賠償、成功報酬型の弁護士制度、そしてディスカバリーによる証拠開示など、訴訟を提起しやすい環境にあります。
当事務所では、カリフォルニア州の法律に精通し、日本語対応が可能な弁護士が、日系企業の皆様の米国ビジネスをサポートしています。訴訟予防、契約レビュー、社内規程の整備など、お気軽にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和