カリフォルニア州の民事訴訟において、998オファー(Offer to Compromise)は訴訟を有利に進めるための強力な法的ツールです。この制度は、訴訟当事者に対して、和解を拒否した場合に弁護士費用や裁判費用を負担させることができるという特徴を持っており、アメリカの民事訴訟の戦略において非常に重要な役割を果たします。日本には存在しない制度なので、このような制度があることを理解しておくと、突然の998オファーにも驚かずに対応できます。
カリフォルニア民事訴訟法第998条(California Code of Civil Procedure § 998)抜粋
“If an offer made by a defendant is not accepted and the plaintiff fails to obtain a more favorable judgment or award, the plaintiff shall not recover their postoffer costs and shall pay the defendant’s costs from the time of the offer.”
— Cal. Code Civ. Proc. §998(c)(1)
この条文が示す通り、和解案を拒否した側が後で得られる判決額が和解案よりも少なかった場合、相手の弁護士費用やその他の費用を負担しなければならないというリスクが発生します。このため、訴訟を進めるうえで998オファーは、訴訟を有利に進めるための「伝家の宝刀」として機能します。
998オファーが和解促進のために重要な理由
998オファーは、カリフォルニア州の民事訴訟において、和解を促進するために設計された制度です。この制度は、日本の民事訴訟には存在しないユニークな特徴を持っています。日本では、訴訟の結果にかかわらず各当事者が自分の弁護士費用を負担するのが一般的です。しかし、アメリカでは訴訟の進行に伴い高額な弁護士費用や専門家証人の費用が発生するため、和解を拒否することで最終的に非常に高額な費用を負担するリスクが生じます。
具体的には、アメリカでは弁護士費用が非常に高額であるため、訴訟を長引かせることで支払う金額が膨らむ可能性があります。例えば、弁護士の報酬、専門家証人の費用に加え、証拠開示や調査費用も請求が可能ですので、合計すると費用が非常に高額になります。
998オファーは、訴訟が進行する前に和解を促す効果的な手段となります。和解案を受け入れない場合、その後の判決が和解案の金額に満たない場合、相手側に弁護士費用やその他の費用を支払わなければならなくなるため、訴訟の早期解決を目指す動機が強く働きます。
言いがかり訴訟への対抗策としての998オファー
998オファーは、言いがかりのような訴訟に対して非常に強力な防御策となります。例えば、訴訟の根拠が薄い場合でも、相手が不当に訴えを起こしていると感じる場合、早期に和解案を提示することができます。この提案が受け入れられない場合、最終的に裁判で勝訴したとき、相手が和解案を拒否したために自分が支払う費用は非常に高額になる可能性があることを相手に認識させることができます。
また、もし訴訟が続いて最終的に勝訴した場合でも、相手が最初の和解案を拒否した場合、相手の弁護士費用や証人費用を自分が負担しなければならなくなります。これは、特に訴訟の内容が複雑である場合や、勝訴後に予想以上に高額な費用が発生するリスクを防ぐためにも重要です。
998オファーを受取ったときの注意点
998オファーを受け取った際、注意しなければならない重要なポイントがあります。それは、オファーが単なる「普通の和解提案」と考えてしまうことです。もし、オファーを拒否した場合、その後に裁判で得られる判決が和解案よりも低い額だった場合、相手の弁護士費用やその他の費用を負担しなければならなくなるという予期しない結果に繋がります。
例えば、訴訟が進行する中で、相手から提示された和解額が$50,000であったとしましょう。この金額が合理的である場合、裁判で得られる判決が$40,000以下だった場合、相手の弁護士費用や裁判費用を支払う義務が生じる可能性があります。したがって、オファーを受け取った場合は、単なる金額の比較だけでなく、最終的に得られる判決の予測や裁判の進行状況を十分に考慮して判断することが求められます。
998オファーを出す側・受け取る側の判断基準
1. オファーを出す側(原告または被告)の戦略
998オファーを出す側は、最終的な判決額を予測したうえで、和解案の金額を設定します。例えば、裁判の進行状況や証拠、過去の判例を基に、和解案が裁判で得られる判決額に対して合理的な金額であるかどうかを判断します。和解案が過大すぎると相手に拒否される可能性が高く、過小すぎると自分が不利な立場に立たされることになります。
重要なのは、和解案が裁判で得られる可能性のある判決額よりも実際に有利であるかどうかを見極めることです。例えば、相手が勝訴した場合に得られる金額と比較して和解案が十分に合理的であれば、相手がオファーを受け入れるインセンティブが高くなります。
2. オファーを受け取る側の判断基準
オファーを受け取る側は、和解案の金額が合理的かどうかを慎重に検討し、最終的な判決で得られる金額がそれ以上になる可能性が高いかどうかを判断する必要があります。もし和解案を拒否した場合、最終的に裁判で得られる判決が和解案よりも少ない場合、相手の弁護士費用や裁判費用を支払うリスクを負うことになります。
和解案を受け入れない選択をする場合は、必ず裁判で得られる結果を十分に予測し、合理的な判断を下すことが必要です。
実務的なポイントと注意点
- 書面での提示が必須:口頭での和解提案は認められないため、必ず書面で正式にオファーを提示する必要があります。
- オファーの有効期限を設定:通常、オファーには30日間の有効期限が設定されます。この期間内に受諾するかどうかを決定する必要があります。
- 条文に基づいた明記:オファーの文書内に「本提案はCalifornia Code of Civil Procedure §998に基づくものである」と明記し、法的効力を持たせます。
- 再提示のタイミング:最初のオファーを拒否された場合、訴訟の進行状況や相手の態度を見ながら再提示することも戦略的に有効です。
免責事項:この記事に記載された内容は、一般的な法的情報を提供するものであり、特定の事案に対する法的助言を意図したものではありません。具体的な法的問題については、専門の弁護士に相談することをお勧めします。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和