田中良和国際法律事務所

日本に住んでいる人が、カリフォルニアに住んでいる配偶者からカリフォルニアで裁判を起こされて、裁判の申立書が送られてきたら

ハーグ送達条約に基づく送達手続と、無効な送達に対する対応方法

「日本に住んでいると、突然、アメリカ(カリフォルニア州)の裁判所から訴状や申立書(Summons、Complaintなど)が国際郵便で届いた」「離婚や養育費などについて一方的に裁判を起こされたようだが、どう対応すればよいか分からない」――このようなケースは、海外に配偶者が住んでいる場合に実際に起こり得ます。

こうした場合、日本に住んでいる方として最も重要なことは、その「送達」が適法な手続に基づいて行われたものかどうかを確認することです。
アメリカと日本の間では、ハーグ条約という国際条約があり、それに基づかない送達が行われた場合は、送達そのものを無効として争うことも可能です。

「カリフォルニアで配偶者に訴えられ、裁判書類が日本に届いた」場合に、どのように対応すべきかを法的観点から説明します。

国際郵便やDHL・FedExなどの業者を通じて突然届いた書類に、“Superior Court of California”や“Summons”といった記載がある場合、それはアメリカでの民事裁判に関する正式な訴訟書類である可能性があります。

ですが、「届いた=適法に送達された」わけではありません。
最初に確認すべきは、「送達方法がハーグ送達条約に基づいているかどうか」です。

日本とアメリカは、ハーグ条約(正式名:「外国における民事又は商事上の事項に関する裁判外及び裁判書類の送達に関する条約」)の締約国です。この条約は、国を越えて訴訟書類を送達する場合に、その方法と手続を定めた国際的なルールです。

第1条:
この条約は、一締約国の領域に所在する者に対し、民事又は商事上の事項に関して、他の締約国の領域から裁判上又は裁判外の書類を送達しようとする場合に適用する。

第5条:
各締約国は、その中央当局を通じて送達を行う義務を負うものとし、その送達は、当該国の法令に従い、または要請により特定の方式に従って実施される。

日本では、裁判所からの書類送達は法務省(中央当局)→地方裁判所→受取人というルートで行われます。アメリカ側から申請された送達依頼は、日本の法務省を経由して、最寄りの地方裁判所の書記官が日本の民事訴訟法に基づいて直接届ける仕組みです。

実務上の流れ:

  1. アメリカの当局が送達申請(和訳付き)
  2. 日本語訳された訴状等が法務省に送付
  3. 地方裁判所から書記官が自宅に書類を送達
  4. 受領後、アメリカに送達証明書が返送される

この手続は4か月から6か月程度かかることがあります。もしそれよりも早く、普通郵便や民間業者で送られてきた場合は、適法な送達でない可能性があります。

カリフォルニア州などでは、原告側がハーグ条約の規定を無視して、国際郵便や代理人を通じた私的な送達を試みることがあります。
しかし、日本は条約第10条に基づく送達(郵便送達や私人送達)を許容していないと明確に表明しています。

したがって、日本に送られた書類が地方裁判所を経由していない場合、その送達は条約違反であり、無効として争うことができます。

反論例:
この送達はハーグ送達条約に従っておらず、適法な送達とはいえず、訴訟手続における適正手続(due process)が欠けている。

このような違法送達を理由に、カリフォルニア州の裁判所で「適法に送達がされていない」と主張したり、将来的にアメリカの判決が日本で執行されそうな場合には、「送達が無効だったので執行できない」と抗弁することができます。

  • 書類が届いたら、国際法を理解している弁護士に相談して、送達方法・送付元・内容を確認
  • 地方裁判所からの送達でない場合は、弁護士に相談して異議を唱える
  • 放置すると欠席判決が出るおそれがあるため、何もしないことは避ける

日本に住んでいる方が、カリフォルニアに住む配偶者から裁判を起こされ、突然訴訟書類が送られてきたとしても、それがハーグ送達条約に基づく適法な送達かどうかを確認することがまず第一です。

もし条約に従っていなければ、その送達は無効であるとして、裁判自体を争う根拠になります。逆に、正式な送達である場合には、一定の期限内に適切に対応する必要があります。

早めに専門家に相談することが、あなたの権利を守る最善の方法です。

免責事項

本記事は、一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、特定の事案についての法的助言を構成するものではありません。具体的な事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。記事内容には万全を期しておりますが、情報の正確性・最新性・完全性を保証するものではありません。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和

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