はじめに
2025年8月22日に報道された米国務省による大規模なビザ調査について、カリフォルニア州で移民法業務に従事する弁護士として、この政策変更が日本人を含む外国人ビザ保有者に与える法的影響について分析いたします。
調査の概要と法的根拠
調査の規模と対象
今回の調査は、現在有効なアメリカビザを保有する5500万人以上という前例のない規模で実施されています。この数字は、アメリカに滞在する外国人の大部分を網羅する包括的な調査であることを示しています。
法的権限の根拠
国務省がこのような大規模調査を実施する法的権限は、主に以下の法律に基づいています:
- 移民国籍法(INA)第221条(i):領事官によるビザ取消権限
- 連邦規則集8 CFR 41.122:ビザ取消の手続規定
- 愛国者法:テロ対策を目的とした情報収集権限
調査対象となる行為と法的基準
主要な調査項目
報道によると、以下の事項が調査対象となっています:
- 不法滞在(Unlawful Presence)
- ステータス期間の超過
- 授権された活動範囲の逸脱
- 犯罪行為
- 重罪(Felony)の有罪判決
- 道徳的卑劣行為(CIMT: Crime Involving Moral Turpitude)
- 薬物関連犯罪
- テロ活動への関与
- テロ組織との関係
- 国家安全保障上の脅威
法的基準の厳格化
従来の個別審査から、継続的監視システムへの移行は、ビザ保有者にとって重大な変化です。これまでは主に入国時や更新時のチェックに留まっていましたが、現在は常時監視下に置かれることになります。
学生ビザへの特別な影響
既に実施された措置
2025年に入って6000人以上の学生ビザが取り消されたという事実は、特にF-1ビザ保有者への厳格な審査が既に始まっていることを示しています。
学生が注意すべき点
- 履修単位数の維持:フルタイムステータスの厳格な遵守
- 就労制限の遵守:CPT/OPTルールの完全な理解と遵守
- 住所変更届出:SEVIS システムでの情報更新義務
日本人ビザ保有者への実務的アドバイス
即座に実施すべき対策
1. 記録の整理と保管
- 入出国記録:I-94の保管と確認
- 税務記録:適切な税務申告の証明
- 雇用記録:雇用証明書と給与明細の整理
2. コンプライアンス状況の点検
- ビザステータスの確認:現在の活動が認可された範囲内かの確認
- 犯罪歴のチェック:交通違反を含む全ての法的問題の整理
- 家族のステータス:扶養家族のビザ状況の確認
3. 予防的法的措置
- 移民弁護士との相談:潜在的リスクの早期発見
- 書類準備:ビザ取消に備えた防御資料の準備
長期的戦略
永住権申請の加速
現在の環境下では、可能な限り早期の永住権申請を検討することが重要です:
- EB-1:特別能力者・研究者
- EB-2/EB-3:雇用ベースの申請
- 投資ビザ(EB-5):投資による永住権取得
ビザ取消手続きの法的プロセス
手続きの流れ
- 初期調査:データベースでの情報収集
- 詳細審査:個別ケースの精査
- 取消決定:領事官による最終判断
- 通知:ビザ保有者への正式通知
防御の機会
重要な点として、行政的救済手段は極めて限定的であることを理解する必要があります:
- 領事判断は原則として司法審査の対象外
- 新たなビザ申請による再チャレンジが主な救済手段
法的リスクの評価と対応策
高リスク要因
以下に該当する場合は特に注意が必要です:
- 過去の軽微な犯罪歴(交通違反含む)
- ステータス維持に関する不明確な期間
- 税務申告の不備や遅延
- 雇用認可の範囲を超えた活動歴
中程度リスク要因
- 頻繁な出入国履歴
- 複数のビザタイプの変更歴
- 家族のステータス問題
企業への影響と対策
人事部門への提言
企業としても従業員のビザ状況を積極的に管理する必要があります:
- 定期的ステータス確認:四半期ごとのビザ有効性チェック
- 法的サポート提供:移民弁護士費用の負担
- 緊急時対応計画:ビザ取消時の代替要員確保
今後の展望と予測
政策の継続性
トランプ政権の移民政策厳格化は、今回の調査が一時的措置ではなく、新たな標準的運用となる可能性が高いことを示唆しています。
影響の拡大
現在は犯罪歴やテロ活動に焦点が当てられていますが、今後は以下の分野にも拡大される可能性があります:
- 税務コンプライアンス
- 公的給付の利用歴
- 政治活動への参加
まとめ
基本的スタンス
現在の環境下では、完璧なコンプライアンスが最低限の要件となっています。「グレーゾーン」での活動は極めて高いリスクを伴います。
緊急性の高い行動項目
- 即座の法的相談:専門弁護士による現状評価
- 書類整備:完全な記録の準備と保管
- 代替計画策定:ビザ取消時の対応計画
- 永住権申請検討:可能な限り早期の申請
この大規模調査は、アメリカ移民法史上でも類を見ない包括的な取り組みです。日本人ビザ保有者にとって政策変更になる可能性があります。
予防的措置を講じることで多くのリスクは回避可能ですが、専門的知識と迅速な対応が不可欠です。現在アメリカに滞在中、または今後の滞在を予定している日本人の方々で、気になる状況にある方は、移民法専門弁護士との相談を推奨いたします。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的アドバイスではありません。個別のケースについては、必ず資格を持った移民弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和