ビジネスを買うために、エスクローにお金を入れたが、家主が賃貸借契約を締結してくれなかった場合に、エスクローに入れたお金を返還して貰う方法について、相談を受けることがあります。エスクローに入れたお金を取り戻す方法について、説明します。
― カリフォルニア不動産・ビジネス取引における実務解説 ―
カリフォルニアで不動産やビジネスを購入する際、エスクロー(Escrow)に資金を預けることは一般的です。
一方で、日本人の方から特に多い質問が次の点です。
- エスクローに入れたお金は、契約が流れたら戻ってくるのか
- 返還される場合、誰の判断で・どのような手続で返還されるのか
- 売主が返還に同意しない場合はどうなるのか
本記事では、カリフォルニア弁護士の視点から、
エスクロー資金の「返還」の仕組みと実務上の注意点を解説します。
1. エスクローとは何か(前提整理)
エスクローとは、売主・買主の間に立つ**中立の第三者機関(エスクロー会社)**が、
- 購入代金
- デポジット(Earnest Money Deposit)
- 契約関連書類
を預かり、契約条件が満たされた場合のみ資金を支払う仕組みです。
重要
エスクロー会社は、どちらの味方でもなく、勝手な判断は一切できません。
2. エスクローに入れたお金が「返還」される典型的なケース
(1)契約解除条件が成就した場合(Contingency)
以下のような条件が契約書に明記されている場合、条件不成立で返還されます。
- 融資(Loan Contingency)が通らなかった
- インスペクションで重大な欠陥が見つかった
- 賃貸借契約の承継に失敗した
- 政府許可・ライセンスが取得できなかった
この場合、買主の正当な解除として返還対象になります。
(2)契約解除期限内に適法に解除した場合
カリフォルニアでは、
- 一定期間内であれば
- 理由を問わず解除可能
という条項が入ることもあります。
この期限内に解除すれば、
原則としてデポジットは全額返還されます。
(3)売主側の契約違反(Breach)
売主が以下のような違反をした場合、
- 重要事項の不開示
- 引渡し不能
- 虚偽説明
買主は契約解除と同時に、
エスクロー資金の返還を請求できます。
3. エスクロー資金は「誰の判断」で返還されるのか?
ここが最も誤解されやすい点です。
❌ エスクロー会社が判断する → 誤り
❌ 弁護士が指示すれば返る → 誤り
原則
エスクロー資金は、次のいずれかがない限り返還されません。
- 売主・買主双方の書面同意
- 裁判所命令
- 仲裁判断(契約で仲裁が定められている場合)
つまり、相手が同意しなければ自動的には返りません。
4. 売主が返還に同意しない場合はどうなるのか?
この場合、エスクロー会社は資金を凍結します。
その後の選択肢は次のとおりです。
(1)書面交渉・弁護士間協議
- Demand Letter
- 法的根拠の提示
- 和解交渉
(2)仲裁(Arbitration)
- 不動産契約でよく指定されている
- 裁判より迅速な場合あり
(3)訴訟(Litigation)
- Declaratory Relief
- Breach of Contract
- Escrow Dispute
5. エスクローから返還される際の実務的な流れ
- 返還合意書(Cancellation / Mutual Release)作成
- 売主・買主が署名
- エスクロー会社が指示書を確認
- 指定口座へ返金(Wire / Check)
返金先は原則として、入金元と同一口座になります
(マネーロンダリング規制のため)
6. 日本人の方が特に注意すべきポイント
✔ 契約書の解除条項(Contingency)の理解
英語契約を「なんとなく」で署名するのは非常に危険です。
✔ 返還期限・手続を事前に確認
「返ってくると思っていた」は通用しません。
✔ 弁護士関与のタイミング
トラブルになってからでは遅いケースが多いです。
7. まとめ
- エスクロー資金は自動的には返還されない
- 返還には契約・合意・法的根拠が必要
- 売主が争えば、資金は凍結される
- 事前の契約設計と解除条項が最重要
免責事項(Disclaimer)
本記事は一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、特定の案件に対する法的助言ではありません。具体的な事案については、カリフォルニア州弁護士に直接ご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
