田中良和国際法律事務所

夫の単独名義でも、妻の署名なしで家を売れるのか?

離婚協議中の方や、夫婦間の財産管理について疑問をお持ちの方から寄せられる相談について解説します。

「婚姻中に購入した不動産ですが、名義は夫の単独名義(Sole and Separate Property)になっています。夫が勝手に売却しようとしているのですが、私の署名なしで売れてしまうのでしょうか?」

結論から申し上げますと、法律上も実務上も、妻(配偶者)の署名なしで売却を完了させることは極めて困難です。

なぜ「夫の名義」なのに「妻の署名」が必要なのか? その理由をカリフォルニア州特有の法律と、不動産取引の実務の観点から解説します。


カリフォルニア州は**Community Property State(夫婦共有財産州)**です。

これは原則として、「婚姻期間中に得た収入や資産は、名義にかかわらず夫婦の共有財産とみなされる」というルールです。

たとえ不動産のタイトル(権利書)上の名義が夫一人(Husband, a married man as his sole and separate propertyなど)になっていたとしても、その購入資金が婚姻中の収入(給与など)から出ている場合、その不動産は夫婦共有財産(Community Property)であるという強い推定が働きます。

カリフォルニア州家族法(Family Code Section 1102)では、夫婦共有財産である不動産を売却、譲渡、またはリース(1年以上)する場合、両方の配偶者が書類に署名しなければならないと定められています。

つまり、夫が独断で契約書にサインをしたとしても、妻の合意がなければその契約は無効、または取り消しの対象となる可能性があります。

法律論だけでなく、実際の不動産取引の現場(実務)においても、妻の署名なしで売却手続きを進めることはほぼ不可能です。

アメリカの不動産売買では、**タイトルカンパニー(Title Company)**が物件の権利関係を調査し、タイトル保険(Title Insurance)を発行します。

タイトルカンパニーは、後々の訴訟リスクを極端に嫌います。「実はあの不動産は夫婦共有財産だったから、売却は無効だ」と妻から訴えられるリスクを避けるため、彼らは以下のような運用を徹底しています。

  • 配偶者の権利放棄を要求する: 売主が既婚者である場合、たとえ単独名義の物件であっても、配偶者に「Quitclaim Deed(権利放棄証書)」や「Interspousal Transfer Deed」への署名を求めます。
  • 署名がないとクロージングできない: 配偶者の署名(「この売却に同意し、この物件に対する権利を主張しません」という意思表示)が得られない限り、タイトルカンパニーは保険を発行しません。その結果、エスクローは完了せず、売却は成立しません。

つまり、夫がどれほど強行しようとしても、仲介する第三者機関(エスクローやタイトルカンパニー)がストップをかける仕組みになっています。

まとめ

ご相談のケースでは、婚姻中に購入されているため、たとえ夫の単独名義であっても、売却プロセスにおいてあなたの署名(同意)が必ず求められます。

もし、夫が勝手に署名を偽造したり、脅迫して署名をさせようとしている場合は、直ちに弁護士にご相談ください。それはまた別の法的問題(詐欺やDVなど)となります。

カリフォルニア州の不動産と家族法は複雑に絡み合っています。ご自身の権利を守るためにも、疑問がある場合は専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。


免責事項(Disclaimer)

本記事の内容は一般的な情報の提供のみを目的としており、法的助言(リーガルアドバイス)を意図したものではありません。本記事の情報を利用した結果生じたいかなる損害についても、当職は責任を負いかねます。個別の事案については、必ずカリフォルニア州の資格を持つ弁護士に直接ご相談ください。また、本記事の閲覧によって弁護士と依頼人の関係(Attorney-Client Relationship)が生じることはありません。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

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