クライアントから
「エスクロー(Escrow)にデポジット(手付金)を入金するように言われましたが、振り込んでしまって大丈夫でしょうか?」
という質問をよく受けます。
見ず知らずの口座に大金を送金することに不安を覚えるのは当然ですが、**結論から言えば、正当なエスクロー会社であれば、そこは「取引において最も安全なお金の保管場所」**となります。
本記事では、なぜエスクローへの送金が安全なのかについて、その仕組みと役割を分かりやすく解説します。
エスクロー(Escrow)とは何か
エスクローとは、売主と買主の間に立つ
「中立な第三者機関(仲介役)」
のことです。
カリフォルニア州の不動産取引やビジネス売買(M&A)では、買主が売主の口座に直接お金を振り込むことは通常ありません。
代わりに、エスクロー会社が管理する**信託口座(Escrow Account)**に送金します。
なぜエスクローを使うのか
もし買主が売主に直接お金を渡してしまった場合、次のようなリスクがあります。
- 「お金を払ったのに、名義変更をしてくれない」
- 「取引がキャンセルになったのに、お金を返してくれない」
エスクローは、こうしたトラブルを防ぐための
**「安全装置」**として機能します。
エスクローがお金を管理する仕組み
エスクロー会社は、双方から預かった
「お金」と「権利」
を一時的に保管し、契約と指示書に基づいて業務を行います。
1. 中立な保管
エスクローは、買主の味方でも売主の味方でもありません。
双方が合意した**エスクロー指示書(Escrow Instructions)**に従い、厳格に資金を管理します。
2. 条件付きの支払い
買主から預かったお金は、すぐに売主に渡されるわけではありません。
エスクローオフィサーが、以下の条件をすべて確認して初めて、売主への送金が行われます。
- 登記(名義変更)が完了していること
- 物件の権利関係(タイトル)に問題がないこと
- 契約条件がすべて満たされていること
3. 取引キャンセルの場合
正当な理由で取引がキャンセルになった場合、エスクロー口座にある手付金は、
- 契約書の規定に従って買主に返還される
- もしくは違約金として処理される
いずれかとなります。
売主が勝手にお金を持ち逃げすることはできません。
【重要】送金詐欺(Wire Fraud)への注意
**「エスクローへの送金自体は安全」**ですが、
**「送金先情報のすり替え」**には最大限の注意が必要です。
近年、エスクロー担当者や不動産エージェントのメールがハッキングされ、
**偽の送金指示書(Wiring Instructions)**を送りつけ、犯人の口座に送金させる詐欺(Wire Fraud)が多発しています。
送金前のチェックリスト
- 電話確認を必ず行う
メールで送られてきた振込先情報だけを信じず、
エスクロー担当者に必ず電話をかけ、
口座番号・銀行名を口頭で読み合わせて確認してください。 - 急かす連絡に注意
「今すぐ振り込まないと契約が無効になる」
といった不自然に急かすメールは、詐欺の可能性があります。
まとめ
**「エスクローに入金する」**というのは、
相手(売主)にお金を渡すことではありません。
それは、
「取引が完了するまで、中立な金庫にお金を預けておく」
という意味です。
送金先口座の確認を慎重に行う限り、
エスクローは買主の資金を守るための極めて重要な仕組みであり、
安心して利用して問題ありません。
【免責事項】
本記事は一般的な法的情報の提供を目的とするものであり、
特定の事案に対する法的アドバイスを構成するものではありません。
具体的な法的判断については、必ず弁護士に直接ご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
