最近、米国入国審査(特に Bビザ や ESTA での入国)の際に、所持している PCやスマートフォンのパスワードを要求され、中身を確認されるケース が増えています。
クライアントの方からも、
「パスワードの開示を拒否することはできるのか?」
という質問を頻繁に受けます。
カリフォルニア州へようこそ…のはずが
ビジネスミーティングや観光、視察などで B-1/B-2ビザ(またはESTA) を取得し、サンフランシスコやロサンゼルスに到着。
しかし、入国審査(CBP)で 別室(Secondary Inspection) に呼ばれ、こう言われたらどうしますか?
「パソコンとスマホのパスワードを教えなさい。中身を確認します。」
思わず
「プライバシーの侵害だ」
「弁護士を呼んでくれ」
と言いたくなる場面ですが、国境では米国内とは異なる法理 が適用されます。
本記事では、Bビザ入国時における電子機器(PC・スマートフォン)の検査 について、
法的背景と実務的な対策 を分かりやすく解説します。
1. なぜ令状なしで中身を見られるのか?(国境捜索例外)
アメリカ合衆国憲法修正第4条は、不当な捜索や押収から個人を保護しており、通常、警察がスマートフォンを調べるには 裁判所の令状(Warrant) が必要です。
しかし、空港などの国境では
「国境捜索例外(Border Search Exception)」
という法理が適用されます。
国家には
「誰が入国し、何が持ち込まれるかを管理する主権」
があるため、
- 令状なし
- 犯罪の具体的嫌疑がなくても
CBP(米国税関・国境警備局)の審査官は、所持品や電子機器を検査できる と解釈されています。
つまり、CBP審査官が「見せなさい」と言えば、法的には検査が可能 なのです。
2. 審査官は何を探しているのか?
特に Bビザ(商用・観光) 入国者について、CBPが警戒しているのは主に次の点です。
■ 不法就労の意図
- 「明日からアルバイトが始まる」などのメール・LINE
- 給与・報酬に関するやり取り
■ 移民の意図(オーバーステイ)
- 「もう日本には帰らない」
- 「アメリカで家を探す」といったメッセージ
- 履歴書(Resume)や職探し関連データ
■ 違法コンテンツ
- 児童ポルノ
- 違法薬物に関する情報 など
特に B-1(商用)ビザ では、
「実質的な労働」 は禁止されています。
- 会議・視察 → OK
- 現場での作業指示、報酬受領 → NG
PC内のメールやチャットに
「作業指示」「報酬」「業務遂行」 を示す内容があれば、
それだけで 入国拒否の決定打 になり得ます。
3. パスワード開示を拒否したらどうなる?
パスワードの開示を拒否した場合、次のようなリスクが現実的に想定されます。
- 入国拒否
協力姿勢がないと判断され、そのまま日本へ送還される可能性が高い。 - 機器の没収
解析目的で、PCやスマートフォンが 数週間〜数か月 没収されることも。 - 将来のビザ・入国への悪影響
入国拒否の履歴は、その後のビザ申請やESTA利用に重大な影響を与えます。
結論:
入国を希望する限り、現場での開示要求には従わざるを得ない のが実情です。
4. トラブルを避けるための「4つの自衛策」
入国審査でのリスクを最小限にするため、以下の対策を強く推奨します。
① 不要なデータは持っていかない(Travel Clean)
最も安全なのは、
「見られて困るデータが一切入っていない機器」 を持ち込むことです。
- 出張用に初期化したPC・スマホを使用
- 業務に必要な 最小限のファイルのみ を保存
② クラウドサービスからログアウトしておく
CBPの方針上、原則として捜索対象は
「デバイス内に保存されているデータ」 です。
- メールアプリ
- SNS
- クラウドストレージ
これらからは 事前にログアウト し、
パスワード保存をオフ にしておくのが安全です。
③ 機内モードにしておく
審査官に渡す際は、
- 機内モード
- 通信オフ状態
にしておくことで、
外部からのメッセージ着信による 不要な疑念 を避けられます。
④ 弁護士・顧客秘匿特権(Attorney-Client Privilege)の主張
企業の法務担当者などで、
- 弁護士との極秘通信
- 法的助言資料
が含まれている場合は、その旨を伝え、
当該ファイルへのアクセス制限 を求めることが可能です。
※ただし、現場での主張には
高度な英語力と法的知識 が求められます。
まとめ
「自分は何も悪いことをしていないから大丈夫」
という考えは非常に危険です。
- 何気ないチャット履歴
- 友人の冗談メッセージ
これらが誤解され、入国拒否につながるケースは現実に発生 しています。
国境は、憲法の保護が及ばない特殊なエリア
この前提を理解し、
デジタルデバイスの中身もスーツケースと同じように整理整頓 してから渡米することを強くおすすめします。
※免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的助言を構成するものではありません。
個別の事案については、必ず 移民法専門の弁護士 にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
