田中良和国際法律事務所

【カリフォルニア弁護士解説】カリフォルニア州に「遺留分」はあるのか?日本との決定的な違い

「長年連絡を取っていない息子には、遺産を一銭も渡したくないんです」

エステートプランニング(遺産相続計画)のご相談を受けていると、日本人クライアントからよく聞く言葉です。

日本には 「遺留分(いりゅうぶん)」 という強力な制度があります。
たとえ遺言書で「全財産を愛人に渡す」と書いても、配偶者や子供には最低限の取り分(遺留分)を請求する権利が法律で保障されています。

では、ここカリフォルニア州ではどうでしょうか?

結論から言うと、カリフォルニア州に日本の「遺留分」に相当する制度は存在しません。

今回は、日本と大きく異なるカリフォルニアの相続ルールと、**見落としがちな「落とし穴」**について解説します。


カリフォルニア州を含むアメリカの多くの州では、

「自分の財産は、自分の好きなように処分できる」

という 遺言の自由(Testamentary Freedom) が非常に強く尊重されます。

極端な話、配偶者や子供がいても、

  • 遺言書(Will)
  • リビングトラスト(Living Trust)

で明確に指定すれば、

  • 隣人
  • 慈善団体
  • さらには 飼っているペットのための信託

に全財産を残すことも可能です。

日本では、遺留分侵害額請求をされれば子供にお金を払う必要がありますが、
カリフォルニアでは、合法的に「子供にゼロ」とすることが可能です。


「では、夫が勝手に全財産を寄付してしまったら、妻は路頭に迷うのか?」

答えは NO です。

ここで重要なのが、**コミュニティ・プロパティ(Community Property:夫婦共有財産)**のルールです。

カリフォルニア州はコミュニティ・プロパティ州

結婚期間中に築いた財産(給与・不動産・貯蓄など)は、

  • 夫 50%
  • 妻 50%

ずつ所有していると法律上みなされます。

夫が自由に遺言できるのは、あくまで自分の持ち分である50%だけです。

残りの50%は最初から妻の財産であり、
夫が遺言で第三者に渡すことはできません。

👉 遺留分という形ではありませんが、
配偶者は「共有財産権」によって強力に保護されています。


ここが、最もトラブルになりやすいポイントです。

カリフォルニアでは子供に遺産を渡さないことは可能ですが、
「正しい手続き」を踏まなければ逆効果になります。

子供を無視するとどうなるか?

遺言書やトラストの中で、
ある子供について一切触れなかった場合、法律は次のように解釈します。

「親は、この子の存在をうっかり忘れていたに違いない」

このような子供は Omitted Child(忘れられた子供) と扱われ、

  • 本来もらえたはずの法定相続分

を請求できてしまいます。

子供を相続から除外したい場合の正しい書き方

意図的に相続させない場合は、冷たく見えても明確な文言が必要です。

例:

  • 「私は、息子〇〇には、いかなる財産も分与しない」
  • 「私は〇〇の存在を認識しており、意図的に相続から除外する」

👉 「意図的であること」 を明示しない限り、
後に高確率で訴訟リスクが生じます。


日本のような遺留分制度がないため、
相続から外された子供は 簡単な請求手続きが使えません

その代わりに何をするかというと、

「遺言書やトラスト自体が無効だ」

と訴えます。

よくある主張例

  • 不当な影響(Undue Influence)
    「介護者や第三者が親を洗脳して書かせた」
  • 判断能力の欠如(Lack of Capacity)
    「認知症で、自分が何にサインしているか分かっていなかった」

カリフォルニアの相続訴訟は、
弁護士費用が数百万〜数千万円規模になることも珍しくありません。

最強の防衛策:リビングトラスト

このリスクを下げるためには、

  • 単なる遺言書(Will)ではなく
  • リビングトラスト(Living Trust) を作成し
  • 弁護士立ち会いのもとで作成過程を記録する

ことが、最も実務的で強力な対策です。


まとめ

  • カリフォルニアに「遺留分」は存在しない
  • 配偶者は コミュニティ・プロパティ(共有財産権) により保護される
  • 子供を相続から外すことは可能だが、
    文書による「明確な排除宣言」が必須
  • 日本と同じ感覚でいると、深刻な相続訴訟に発展する危険がある

カリフォルニアにお住まいの方は、
必ず現地法に基づいたエステートプランニングを行ってください。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。具体的な状況については、必ずカリフォルニア州弁護士にご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

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