カリフォルニア州の保護者の皆様から、最近学校のルール変更についてのご質問をいただくことが増えました。
「子供の通う学校で、今年からスマートフォンの持ち込みが禁止(またはポーチでのロック)になりました。これは州の法律なのでしょうか?」
答えは「イエス」であり、かつ「今後さらに加速する流れ」です。
ニューサム知事が署名した**「Phone-Free Schools Act (AB 3216)」**により、カリフォルニア州のすべての学区は、2026年7月1日までに生徒のスマートフォン使用を制限、または禁止するポリシーを策定することが義務付けられました。
多くの学区がこの期限を待たずに先行導入を始めています。今回は、この新しい法律の法的根拠と、保護者がもっとも懸念する「緊急時の対応」について解説します。
1. スマホ没収は合憲?「教育を受ける権利」との兼ね合い
まず、法的な側面から見てみましょう。「学校が生徒の私物であるスマホを没収したり、使用を禁じたりすることは、個人の自由や財産権の侵害ではないか?」という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
法的見解としては、学校区によるスマホ規制は合憲であり、正当な権限の行使とみなされます。
学校には、生徒に安全で集中できる学習環境を提供する義務があります。ソーシャルメディアの中毒性や、授業中の不適切な使用が「教育環境を著しく阻害する」というデータが多数示されており、AB 3216はこの「教育上の利益」を優先する形で制定されました。したがって、教育委員会が定めた適正な手続きに基づく制限であれば、法的に問題はありません。
2. 親として一番の不安:「緊急時の連絡」はどうなる?
この法律に関して、保護者の方からもっとも多く寄せられる懸念は、**「学校で銃撃事件や災害などの緊急事態が起きた時、子供と連絡が取れないのではないか」**という点です。
この点について、AB 3216は非常に明確な例外規定(Exceptions)を設けています。法律は、学校区がスマホを禁止する場合でも、以下の状況では生徒の使用を許可しなければならないと定めています。
- 緊急事態(Emergency): 災害や生命の危険がある状況。
- 健康上の理由(Medical Necessity): 糖尿病のモニタリングアプリなど、医師の指示でスマホが必要な場合。
- 個別教育プログラム(IEP/504 Plan): 特別支援教育の一環としてデバイスが必要と認められている場合。
つまり、どのような「禁止ポリシー」が作られたとしても、緊急時や医療上の必要性がある場合までスマホを取り上げることは、この法律でも認められていません。もし学校側の運用がこれらを無視している場合は、是正を求めることができます。
3. 教育現場での「AI活用」と「スマホ禁止」のバランス
もう一つの論点は、教育テクノロジーとの共存です。「学校でAIやテック教育を進めると言いつつ、スマホを取り上げるのは矛盾していないか?」という声も聞かれます。
しかし、この法律の趣旨は「テクノロジーの否定」ではありません。 学校側は、ChromebookやiPadなど「学校が管理するデバイス」を通じたAI学習やICT教育は推進する一方で、「管理できない私物デバイス(スマホ)」によるSNSや娯楽へのアクセスを遮断するという区別を明確にしています。
教育現場では今後、「学習ツールとしての端末」と「個人のスマホ」の境界線が、より厳格に引かれることになるでしょう。
まとめ
2026年の完全施行に向け、今後お住まいの学区(School District)でも具体的なルールの話し合いが行われるはずです。
保護者としては、単に反対・賛成をするだけでなく、「緊急時の連絡フローが具体的にどう確保されているか」(例:スマホがロックされている場合、どうやって緊急通報をするのか、学校からの連絡網はどうなっているか)を、学校区のボードミーティング等で確認しておくことをお勧めします。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の案件については専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和
