田中良和国際法律事務所

カリフォルニア州における解雇リスクと実務対応 ―「At-will(随意雇用)」の誤解と差別・報復主張への対策

企業から、パフォーマンスが悪い従業員を解雇したいのですが、どのような手続を取ればいいですか、という相談を受けることがあります。

米国、特にカリフォルニア州で事業を行う日本企業にとって、人事労務管理は最大の経営リスクの一つです。

「アメリカはAt-will(随意雇用)だから、いつでも解雇できる」という認識は、法的には間違いではありませんが、実務上は非常に危険な側面を含んでいます。

本稿では、At-will原則の例外となる法的制約、特に「年齢差別」「障害者差別」「報復」のリスクに焦点を当て、企業がとるべき適切なプロセスについて解説します。

カリフォルニア州では、雇用契約に期間の定めがない限り、原則として雇用主・従業員双方がいつでも理由を問わず雇用関係を終了させることができます(At-will Employment)。

しかし、これには**「違法な理由に基づく解雇はできない」**という重要な例外が存在します。 企業側が「At-willに基づき、理由を告げずに解雇する」という手段をとったとしても、従業員側から「真の解雇理由は、私の人種、年齢、性別、あるいは障害にある」と主張された場合、企業は防戦を強いられます。

客観的な解雇理由(パフォーマンス不足や規律違反など)を文書で立証できない場合、これらの差別主張を覆すことは実務上困難となります。

人員削減や組織再編の際、特に留意すべきなのが年齢差別です。連邦法およびカリフォルニア州公正雇用住宅法(FEHA)では、40歳以上の従業員が保護対象となります。

  • 高給のベテラン社員と若手社員の入れ替え 「給与の高いシニア社員を解雇し、給与の低い若手社員を採用する」という判断は、経済的合理性があるように見えます。しかし、これが「年齢を理由とした差別的取り扱い」とみなされるリスクがあります。
  • 発言への注意 「新しいスキルについていけない」「エネルギー不足」といった評価も、年齢に関連するステレオタイプと捉えられる可能性があるため、人事考課における表現には細心の注意が必要です。

カリフォルニア州法(FEHA)は、障害を持つ従業員に対し、連邦法(ADA)よりも手厚い保護を与えています。ここで重要となるのが**「合理的配慮(Reasonable Accommodation)」「対話プロセス(Interactive Process)」**です。

  • 即時解雇の禁止 従業員が病気や怪我(精神的な疾患を含む)により業務遂行が困難になった際、直ちに解雇することは原則として認められません。
  • 対話義務 企業は当該従業員に対し、「どのような配慮や調整があれば業務を継続できるか」を誠実に協議する義務(対話プロセス)を負います。このプロセスを経ずに解雇に至った場合、それ自体が法令違反となる可能性が高まります。

差別問題と並列して頻繁に争点となるのが「報復」です。 従業員が以下のような「保護された活動(Protected Activity)」を行った後に解雇などの不利益処分を行うと、報復とみなされるリスクがあります。

  • 未払い賃金やハラスメントに関する苦情の申し立て
  • 労災申請
  • 内部告発

たとえ正当な解雇理由があったとしても、これらの活動と解雇の時期が近接している場合(Temporal Proximity)、因果関係が推定されやすくなります。「苦情を言ったから解雇された」という主張を防ぐためには、苦情申し立て以前からパフォーマンスに関する記録が存在しているかが鍵となります。

カリフォルニア州での解雇において、感情的な判断や即断は禁物です。 リスクを最小限に抑えるためには、以下の実務対応が不可欠です。

  1. 客観的評価の記録化: PIP(業務改善計画)などを通じ、パフォーマンス不足の事実を具体的かつ継続的に記録する。
  2. プロセスの遵守: 障害対応における対話プロセスなど、法令で定められた手順を確実に踏む。
  3. 専門家の関与: 解雇通告を行う前に、法的リスクの有無について弁護士のレビューを受ける。

事前の適切な対策こそが、予期せぬ紛争から企業を守る唯一の手段となります。


Disclaimer: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の案件については、必ず専門の弁護士にご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和

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