Chapter 11と日本の民事再生手続の違いとは?
企業が経営難に陥った場合、事業を清算するのではなく、法的手続きを通じて再建を目指すことがあります。その代表的な制度が、アメリカのChapter 11(チャプター11再生手続)と日本の民事再生手続です。両者はいずれも「債務整理と事業再生」を目的としますが、手続の設計思想・関係者の利害調整の仕組み・再建プランの作成と実行の方法などにおいて違いがあります。
1. 手続開始の主体と企業の関与度
アメリカのChapter 11では、原則として債務者自身が手続を申立て、手続開始後も「DIP(Debtor in Possession)」として経営権を維持します(11 U.S.C. §1107, §1108)。経営陣が主体的に事業運営を継続しつつ、裁判所の監督のもとで再建計画(Plan of Reorganization)を策定・実行するという設計になっており、債務者の再建意思を尊重する制度設計です。
一方、日本の民事再生手続では、債務者が申立人となる点は共通しますが、債権者による申立ても可能です(民事再生法21条)。また、債務者の経営陣は原則として職務を継続できますが、利害関係人の保護の観点から、裁判所が監督委員を選任し、必要に応じて管財人が経営権を代行する場合もあります(民事再生法25条、29条)。つまり、債務者の自由度はChapter 11よりも限定的です。
2. 手続の開始と効力:自動的停止効の有無
Chapter 11では、申立がなされると即時に「Automatic Stay(自動的停止効)」が発生し、債権者による債権の取立・訴訟・強制執行等が一斉に停止されます(11 U.S.C. §362)。これは米国連邦破産法の中核的機能のひとつで、手続の安定性確保と債務者の再建の機会確保のために非常に重要です。
日本の民事再生では、再生手続開始決定が出されても、自動的にすべての債権回収が停止されるわけではありません。債権者の個別執行を止めるためには、裁判所の命令による保全処分や中止命令を別途取得する必要があります(民事再生法30条・31条)。したがって、Chapter 11に比べて債務者保護の即効性は弱いといえます。
3. 再建計画(再生計画)の策定と承認要件
Chapter 11では、債務者(DIP)が再建計画を策定し、債権者を法的に分類した「クラス(Class)」ごとに投票を行います。一定割合の賛成(各クラスの過半数かつ債権額の2/3以上)が得られれば、そのクラスは承認されたと見なされます(11 U.S.C. §1126)。
さらに、いずれかのクラスが反対した場合でも、裁判所が一定の公平性要件を満たしていると認めれば、再建計画を認可できる「クラムダウン(Cramdown)」の制度が存在します(§1129(b))。これは経営側にとって非常に強力なツールです。
一方、日本の民事再生手続では、債権者の多数決による再生計画案の可決が必要です。具体的には、議決に参加した債権者の過半数かつ債権額の2分の1以上の賛成がなければなりません(民事再生法172条)。再建案を債権者の多数意思に委ねており、クラムダウンのような裁判所による上書きは基本的に存在しません。
4. 株主の扱いと資本構成の変更
Chapter 11では、再建計画の一環として既存の株主の持分をゼロにすること(Equity Wipeout)や、新たな出資者に株式を発行して支配権を移転することが可能です。特に債務が大きい企業では、金融機関がスポンサーとなり株式を取得する事例が一般的です。
これに対し、日本の民事再生では、既存株主の権利は原則として維持されるため、スポンサー支援による大規模な資本再編は難しく、再建の柔軟性という点では米国型に劣ると指摘されています。スポンサー支援型の再建を目指す場合、日本では会社更生手続が選択されるケースもあります。
5. 債務者の国際的対応力・スピード感
Chapter 11は手続の柔軟性とスピード感に優れており、国際企業にとっても馴染みやすい再建制度です。再建型M&A(売却による再建)やDIPファイナンスの活用など、現実的かつ迅速な再建戦略を実現しやすい点が高く評価されています。日本企業でも、米国現地法人がChapter 11を活用する事例が近年増加傾向にあります。
一方で、日本の民事再生手続は、慎重かつ形式的な手続進行が求められるため、再建実行までに時間を要する傾向があります。また、裁判所による監督が強く、DIPファイナンスの制度も未整備であるため、金融機関との協調が不可欠です。
まとめ
Chapter 11と日本の民事再生手続は、いずれも企業再生を目指す法的手段でありながら、制度趣旨、債務者の位置づけ、再建計画の柔軟性、株主の扱い、スピード感などにおいて大きく異なります。
国際取引に関与する日系企業にとっては、相手方がChapter 11手続に入った場合の対応や、自社グループ内の米国子会社の再建方法として、Chapter 11の制度理解は必須となります。逆に、日本の手続を採用する場面では、民事再生法の制約を理解したうえで、スポンサー選定や債権者調整の戦略を慎重に立てる必要があります。
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本記事は一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。具体的なご相談や法的判断については、カリフォルニア州の弁護士、または関係国の法律専門家にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和