~Prepetition債権の回収を目指す日本企業のために~
アメリカの連邦倒産法(Chapter 11)の手続では、破産を申請した企業(以下「債務者」)が事業の再建を目指して再編を進める中で、「Critical Vendor(重要取引先)」制度が活用されます。この制度を理解し、適切に対応することは、アメリカ企業と取引のある日本企業にとって、Prepetition(申立前)債権の回収を実現するために重要です。
1. Critical Vendorに指定されるメリット:申立前債権の弁済が受けられる
通常、Chapter 11申請前に発生した債権(Prepetition Trade Claims)は、他の一般無担保債権と同様に、破産手続内での配当の対象となるため、大幅に減額されるか、回収不能となる可能性があります。
しかし、債務者からCritical Vendorとして指定され、かつ裁判所の許可を得た場合には、例外的に申立前の債権について全額または一部の現金弁済を受けることが可能になります。
2. Critical Vendorに課される義務:将来の取引継続
Critical Vendorとして指定される見返りとして、債権者は通常、今後も引き続き債務者との取引を継続することを求められます。これは、債務者が事業継続のために不可欠な取引先に安定供給を依頼するための措置です。
3. Trade Agreementの締結が求められる
Critical Vendorの指定に際しては、債務者から**Trade Agreement(取引契約)**の締結を求められることが多くあります。この契約では:
- 従前の取引条件(価格、納期、支払条件など)と同等、またはそれよりも債務者に有利な条件
- 再建期間中の安定的供給の確約
- 弁済を受けた債権についての放棄等の条件
などが盛り込まれるのが一般的です。
4. 債権者はCritical Vendorに選ばれるために競争する
Critical Vendorに指定されることで申立前の債権回収が可能になるため、多くの債権者がこの指定を受けようと努力します。債務者側は、限られた支払可能額の中で真に不可欠な取引先を選定するため、**「代替困難性」「継続供給の必要性」「既存契約の重要性」**などが審査基準となります。
5. Critical Vendorへの支払には裁判所の許可と上限がある
Critical Vendor制度は、債務者が裁判所の承認を得た上で利用されます。裁判所は通常、Critical Vendorへの支払総額に上限を設ける命令を発します(例:「Critical Vendor Cap」と呼ばれる)。そのため、すべての希望債権者が全額弁済を受けられるとは限りません。
日本企業がアメリカ企業のChapter 11に巻き込まれた場合、Critical Vendor制度を活用してPrepetition債権の回収を目指すことは有力な戦略です。そのためには、債務者との早期交渉、そしてTrade Agreementの慎重な検討と締結が重要です。
アメリカの倒産法制度は日本と大きく異なります。交渉前には、現地弁護士と連携の上、交渉戦略を十分に検討することが不可欠です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和