カリフォルニア州の離婚手続では、別居後に一方の配偶者が自分の資金で「共同債務(community debt)」を支払った場合、 その支払額を相手に返済させることができる場合があります。これを Epstein Credits(エプスタイン・クレジット)と呼びます。
この制度は、1979年のカリフォルニア州最高裁判決 In re Marriage of Epstein(24 Cal.3d 76)に由来し、 現在ではFamily Code §2626 に法的根拠が定められています。 裁判所は、別居後に一方が共同債務や共同費用を支払った場合、状況に応じてその金額の償還を命じることができます。
典型的なケース例
例えば、夫婦が共有する住宅ローン・固定資産税・保険料などを、 別居後に夫が自分の口座から支払い続けていた場合、夫は離婚判決時にその支払い分を「共同体に対する返済請求」として 主張することができます。
制度の趣旨と目的
- 共同財産(community property)に対する支払いを公平に精算するため
- 別居後も一方が過剰に共同債務を負担することを防ぐため
- 支払者の別財産(separate property)を保護するため
判例:In re Marriage of Epstein(1979)
この事件では、夫が別居後も住宅ローンや税金、保険料を支払い続けていました。 妻と子が家に住み続けていたため、裁判所は夫に対して 「共同債務に対する支払い分を共同体から償還すべき」と判断しました。
ただし、判決では重要な制限も示されました。 支払いが「配偶者扶養(spousal support)」や「子の扶養(child support)」の代替として 行われた場合、または支払者自身の便益のためであった場合には、 Epstein Credits は認められない可能性があります。
Epstein Credits が認められるための要件
要件 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
① 支出対象が共同債務である | 婚姻中に発生した住宅ローン・税金・保険など。 | 契約・請求書・支払記録を証拠化。 |
② 支出が別財産からなされた | 支払者の別居後の収入や個人資産。 | 支払元口座や明細を明確に。 |
③ 支出が扶養義務の代替でない | 扶養命令・子供の生活費の代替でないこと。 | 支払意図と法的義務の区別を明示。 |
④ 使用との関係 | 支払対象の資産を自分が独占使用していた場合は減額。 | 使用期間と支出内容の記録が重要。 |
Watts Charges(ワッツ請求)との関係
Epstein Credits はしばしば Watts Charges(専用使用料請求)と同時に議論されます。 Watts は、別居後に一方が共同財産(例:自宅)を独占使用した場合に、 その使用価値(家賃相当額)を他方に支払うべきとする理論です。
たとえば、夫が家に住み続けながら住宅ローンを支払っていた場合、 夫はEpstein Credits(支払い分の返還)を主張できる一方、 妻はWatts Charges(使用料相当額)を請求できる可能性があります。 裁判所はこれらを相殺して公平な分配を行うことが多いです。
実務上のポイント
- 早期主張: Epstein請求は、離婚手続の初期段階で主張しておくこと。
- 証拠整理: 支払明細・銀行記録・契約書などを確保しておく。
- 相殺対策: Watts請求とのバランスを見据えた主張構成が重要。
- 公平考慮: 裁判所は、支出の目的・双方の経済状況などを総合的に判断。
まとめ
Epstein Credits は、離婚・別居後の財産分配における重要な制度であり、 公平な債務分担を実現するためのツールです。 ただし、扶養義務との関係や、Watts請求との相殺など、 実務上の判断は複雑です。 主張のタイミングと証拠準備が結果を大きく左右します。
免責事項
本記事は一般的な法的解説を目的としたものであり、 特定の事案に対する法律助言ではありません。 個別のケースについては、必ず弁護士にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和