田中良和国際法律事務所

逮捕、勾留、保釈:日本とカリフォルニアの法制度比較 


本稿は、刑事手続きにおける身体拘束に関わる主要な三制度、すなわち「逮捕」「勾留」「保釈」について、日本とカリフォルニア州(米国)の制度を比較し、その法的構造と実務上の運用状況を概説するものです。


法的意義

逮捕とは、犯罪の嫌疑がある者の身体の自由を一時的に制限し、捜査機関の管理下に置く法的手続きです。いずれの法制度においても、逮捕は被疑者の基本的人権に対する重大な制約を伴うため、一定の要件が課されています。

カリフォルニア州における逮捕

カリフォルニア州の逮捕手続きは、逮捕状による逮捕(Warrant Arrest)と、逮捕状によらない逮捕(Warrantless Arrest)の二類型に大別されます。警察官が「相当な理由(Probable Cause)」を有していると判断した場合、事前に裁判官の発付する逮捕状がなくとも逮捕は適法に行われます。

逮捕後は、休日を除く48時間以内に裁判所に出廷させ、勾留の当否を裁判官が判断する初期審問(Gerstein Hearing)を受けさせなければなりません(Cal. Penal Code § 825)。

日本における逮捕

日本の刑事訴訟法は、逮捕の類型として①通常逮捕(令状による逮捕)、②現行犯逮捕、③緊急逮捕の三種を規定しています(刑事訴訟法第199条・第213条・第210条)。いずれの類型においても、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」が要件とされており、令状主義の原則が基本的に維持されています。

逮捕後の手続きとしては、48時間以内に検察官へ送致し、さらに検察官は24時間以内に勾留請求または釈放の判断を行わなければなりません(同法第203条・第205条)。


法的意義

勾留とは、逮捕に後続する継続的な身体拘束手続きです。逃亡または罪証隠滅のおそれがある場合に、裁判官の判断により一定期間、被疑者・被告人を拘束するものです。

カリフォルニア州における勾留

逮捕後、休日を除く48時間以内に正式な起訴手続き(Arraignment)がなされなければ、被疑者は原則として釈放されます。起訴がなされた場合、裁判所は保釈金額を設定し、被告人の釈放の可否を判断します。

重大犯罪については、公衆の安全に対する重大な危険性が認められる場合に限り、保釈なしの勾留(No Bail Detention)が認められます。なお、2018年に成立した現金保釈廃止法(SB10)は、2020年の住民投票(Proposition 25)により否決・廃止されており、現在もキャッシュベイルの制度が維持されています。ただし、2021年のカリフォルニア州最高裁判決(In Re Humphrey)により、被告人が保釈金を支払う資力がないことのみを理由とした勾留は、適正手続き条項および平等保護条項に反するとされ、裁判所は被告人の支払能力を考慮する義務を負うとされました。

日本における勾留

日本において、検察官の請求に基づき裁判官が勾留状を発付した場合(刑事訴訟法第207条)、その期間は原則10日間とされ、裁判所が認めた場合にはさらに最大10日間の延長が可能です(同法第208条)。すなわち、起訴前の被疑者勾留は最長20日間に及ぶことになります。

勾留の要件は、①罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由の存在に加え、②住所不定、③罪証隠滅のおそれ、または④逃亡のおそれ、のいずれかが認められることです(同法第207条・第60条)。

実務上の深刻な問題として、「人質司法(Hostage Justice)」と呼ばれる運用が国際的に批判されています。被疑者が黙秘権を行使したり、容疑を否認した場合に勾留が継続・延長されやすい構造があり、日弁連は、無実を主張し、あるいは黙秘権を行使している被疑者・被告人を殊更に長期間身体拘束するいわゆる「人質司法」の運用は、国際的にも批判を受けているとして、取調べへの弁護人立会い権の確立、保釈運用の適正化等の解消措置を求め、継続的に運動を展開しています。

また、黙秘権を行使する被疑者への身体拘束は、自白を強要し、無罪主張を困難にさせる手段として機能しており、拷問の禁止に違反し、憲法および国際人権法にも反するものであって、事案の真相の解明をも妨げていると指摘されています。


法的意義

保釈とは、勾留中の被告人について、金銭的担保その他の条件を付した上で裁判所が釈放を許可する制度です。身体拘束の継続が必ずしも公益上不可欠でない場合に、被告人の防御権の実質的な保障と拘束の最小化を図る制度として位置づけられます。

カリフォルニア州における保釈

カリフォルニア州では、逮捕直後から保釈申請が可能です。各郡が定める保釈金額表(Bail Schedule)に基づいて金額が設定されるのが通常ですが、In Re Humphrey判決(2021年)以降は、裁判所が被告人の支払能力を踏まえて個別に判断することが求められるようになっています。

保釈保証業者(Bail Bondsman)を利用することで、定められた保釈金額の10%程度の保証料を支払うことにより釈放されるシステムが依然として広く利用されています。軽微な事案では、金銭担保なしの自己誓約による釈放(Own Recognizance, OR)も認められています。逃亡リスクや公衆への危険性が高いと判断される重大犯罪については、保釈が認められない場合もあります。

日本における保釈

日本では、保釈は起訴後(被告人段階)に初めて申請が可能となります(刑事訴訟法第89条・第90条)。起訴前の被疑者段階における釈放手段としては、「勾留理由開示」「勾留取消請求」「勾留執行停止申請」等の手続きが存在するものの、実務上の活用は限定的です。

最新の統計によれば、2024年(令和6年)の地方裁判所における通常第一審の保釈率は、自白事件で34.1%、否認事件で27.4%です。さらに、第1回公判期日前の保釈率は、自白事件では26.7%であるのに対し、否認事件では12.0%にとどまっています。

また、2024年の通常第一審事件における起訴後勾留率は70.8%に上ります。

なお、第1回公判前の保釈許可率は長期的には増加傾向にあるものの、否認事件における保釈許可率は自白事件の半分以下の水準にとどまっており、黙秘・否認と身体拘束の長期化が連動するという構造的問題は依然として解消されていません。


比較項目日本カリフォルニア州
逮捕後の審問48時間以内に検察送致、24時間以内に勾留・釈放決定48時間以内にGerstein Hearing
起訴前の最大拘束期間最長23日(逮捕72時間+勾留20日)原則48時間以内(起訴されなければ釈放)
起訴前の保釈実質的に制度なし逮捕直後から申請可能
保釈率(2024年)自白事件34.1%、否認事件27.4%事案・資力・リスク評価による
保釈保証制度なし(保釈金全額納付が必要)保釈保証業者による10%保証料制度あり

日本の制度においては、起訴前の長期勾留と低い保釈許可率が組み合わさることで、被疑者・被告人が防御権を十分に行使できない環境が生まれやすいという構造的課題が指摘されています。日弁連は2025年度の会務執行方針においても引き続きこの問題を最重要課題と位置づけており、刑事デジタル法案(2025年通常国会に提出)の審議状況も踏まえながら、取調べの全過程録音・録画義務化、弁護人立会い権の確立、人質司法の解消に向けた立法・運用の改善を求める活動を継続しています。


日本とカリフォルニア州の刑事手続きは、逮捕要件における「相当な理由」の要件など共通する概念を持つ一方で、特に起訴前の身体拘束期間と保釈制度の利用可能性において顕著な差異があります。カリフォルニア州では逮捕直後から保釈が申請できる仕組みが整備されているのに対し、日本では起訴後に初めて保釈が認められる制度設計となっており、否認・黙秘事件における保釈率の低さが国際的な批判を受け続けています。

逮捕・勾留・保釈に関わる具体的な事案に直面した場合は、早急に刑事事件を専門とする弁護士にご相談ください。

免責事項

本記事は一般的な法制度の解説を目的としており、個別の法律相談には該当しません。具体的な事案については、必ず資格を持つ弁護士にご相談ください。

カリフォルニア拠点(サンフランシスコ、ベイエリア、ロサンゼルス)
カリフォルニア弁護士・日本弁護士
田中良和

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