― 「遺留分」が大きく異なる日米の相続制度 ―
日本でもアメリカでも、「自分の財産を死後どのように処分するか」は、原則として本人の意思が尊重されます。
そのため、「全財産を慈善団体へ寄付したい」「子どもには相続させず、社会貢献に使ってほしい」という遺言を作成すること自体は、日本でもカリフォルニアでも可能です。
しかし、日本とカリフォルニアでは、相続人に保障される権利の考え方が大きく異なります。
特に重要なのが、日本の「遺留分」と、カリフォルニアにおける「遺留分制度の不存在」です。
日本法:全財産を寄付する遺言は可能。ただし「遺留分」がある
日本では、遺言によって「全財産を○○団体へ寄付する」と定めることは可能です。
実際に、慈善団体、学校法人、宗教法人、NPO等への「遺贈寄付」は増えています。
しかし、日本の民法には「遺留分」という制度があります。
遺留分とは?
遺留分とは、一定の法定相続人に最低限保障される相続分です。
典型的には、
- 配偶者
- 子ども
- 直系尊属(親など)
には遺留分があります。
一方で、兄弟姉妹には遺留分はありません。
「全財産を寄付する遺言」を作成した場合どうなるか
たとえば、
「私の全財産を○○慈善団体へ寄付する」
という遺言を作成したとしても、相続人は「遺留分侵害額請求」を行うことができます。
つまり、遺留分を侵害された相続人は、寄付先や受遺者に対して、侵害された分の金銭支払いを請求できます。
したがって、日本では、
- 「全財産を寄付する遺言」を作ること自体は可能
- しかし、遺留分を侵害する部分については、相続人が取り戻せる
という整理になります。
日本で実務上よく問題になる点
日本では、全額寄付型の遺言を作成すると、以下のような紛争が起こることがあります。
1.遺留分侵害額請求
相続人が寄付先に対し、金銭請求を行うケースです。
2.遺言無効争い
相続人が、
- 「認知症で判断能力がなかった」
- 「寄付団体に誘導された」
- 「本人の真意ではない」
などと主張して、遺言自体の無効を争うことがあります。
3.寄付先団体との対立
遺言執行の過程で、
- 寄付先団体
- 遺言執行者
- 相続人
の間で交渉や訴訟になることもあります。
カリフォルニア法:原則として「遺留分」は存在しない
これに対し、カリフォルニアでは、日本のような包括的な「遺留分制度」は存在しません。
カリフォルニア法は、日本よりも「遺言者の自由」を強く尊重する傾向があります。
そのため、原則として、
子どもに一切相続させず、全財産を慈善団体へ寄付する
という遺言も有効です。
カリフォルニアでは子どもを「排除」できる
カリフォルニアでは、成人した子どもについて、
- 相続させない
- 1ドルだけ残す
- 完全に排除する
という遺言を作成することも可能です。
実際、カリフォルニアのEstate Planningでは、「disinherit(相続排除)」という概念が一般的に存在します。
もっとも、カリフォルニアにも一定の例外はある
もっとも、「完全な自由」が無制限に認められているわけではありません。
1.配偶者の権利
夫婦共有財産(community property)については、被相続人が自由に処分できる範囲に制限があります。
配偶者には一定の財産権が保護されています。
2.Omitted Child(記載漏れの子)
カリフォルニアでは、遺言作成後に生まれた子どもなどについて、「単に遺言更新を忘れた」と推定される場合があります。
その場合、「Pretermitted Child(omitted child)」として一定の保護を受ける可能性があります。
ただし、これは日本の遺留分制度とは全く異なる制度です。
日本とカリフォルニアの最大の違い
両国の最大の違いは、
- 日本:家族の最低限の取り分を法律で保護
- カリフォルニア:本人の意思を最大限尊重
という価値観の違いにあります。
| 項目 | 日本 | カリフォルニア |
|---|---|---|
| 全財産寄付の遺言 | 可能 | 可能 |
| 遺留分制度 | あり | 原則なし |
| 子どもの最低保障 | あり | 原則なし |
| 子どもの完全排除 | 困難 | 可能 |
| 遺言自由の強さ | 制限あり | 非常に強い |
国際相続では注意が必要
日本とカリフォルニアに財産がある場合、
- どの国の法律が適用されるか
- 不動産所在地
- 被相続人の国籍
- domicile(住所)
- trust の有無
などによって結果が大きく変わることがあります。
特に、アメリカ居住の日本人や、日米に不動産を持つ方は、
- 日本の遺留分
- カリフォルニアのprobate
- trust設計
- 税務
を総合的に検討する必要があります。
まとめ
日本でもカリフォルニアでも、「全財産を寄付する」という遺言を作成すること自体は可能です。
しかし、
- 日本では相続人に「遺留分」があり、侵害された部分は取り戻される可能性がある
- カリフォルニアでは、原則として遺留分制度がなく、本人の意思が広く尊重される
という大きな違いがあります。
そのため、国際相続では、
- どの国の法律が適用されるか
- 相続人との関係
- 遺留分対策
- trustの活用
などを踏まえた事前設計が極めて重要になります。
免責事項(Disclaimer)
本記事は、一般的な法的情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の案件に対する法的助言(Legal Advice)ではありません。実際の相続・遺言・国際相続案件では、個別事情や最新の法改正、判例等により結論が異なる場合があります。具体的な案件については、日本法およびカリフォルニア法に詳しい弁護士へ個別にご相談ください。
カリフォルニア拠点(サンフランシスコ・ベイエリア・ロサンゼルス)
カリフォルニア州弁護士・日本弁護士
田中良和